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IoT時代のサービスロボットに期待する本当の役割<連載第3回(全3回)>

発想を学ぶ

2017.02.17

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  • 全国600もの高齢者福祉施設で導入、活用されるコミュニケーションロボット~富士ソフト~

コミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」は、本体に搭載の人工知能(AI)とクラウド上のAIを活用しながら人とコミュニケーションする。会話を主体に相手の表情や声質からテンションを分析し、新たな提案へとつなげるデータを蓄積できる。

富士ソフトは長年培ったソフトウェア開発技術と大学などの教育機関や研究機関との知能化技術研究を経て2008年頃から「PALRO」の開発を始め、2010年3月に教育機関向けに「アカデミックシリーズ」を発売した。さらに2012年6月にB to B用の「PALRO ビジネスシリーズ」を市場投入し、現在までに全国600の高齢者福祉施設にPALROを納入している。

PALRO本体のAIとクラウドAIのハイブリッド構造

PALROは、全長40cm、重さ1.8kgとコンパクトで、テーブルに置くと人間の顔を自然と見上げるような姿勢を取り、常に相手を正面から見つめて会話する。人間同士の会話は相手の目を見て話すのが基本的マナーであり、会話中に顔や目線を逸らせば相手に不快な思いを与えてしまう。それに倣いPALROも常に相手の正面を向いて会話する。

また、PALROは動く相手(人間)の顔を常に追従する。というのも会話中の人間は絶えず動き、わずか0.3秒で首ひとつ分の横移動をする。そうした動きについていけなければ、相手の顔を見失ってキョロキョロしてしまい会話など成立しない。そこでPALROは人より狭い視野を補うために周囲を3Dマッピング化する。また、マイクと超音波センサーにより、相手の位置や音源の方向、距離を判断し、相手の顔を素早く視野の中心に捉えることを可能にする。

本体には「フロントエンドAI」 と呼ばれる人工知能(AI)を搭載 していることで、人の顔と名前を覚えて呼びかけたり、顔の追従や会話を可能としている。

このフロントエンドAIを補足するのがクラウド上のAIだ。たとえば、言葉やデータの複雑な分析、解釈、演算処理などはクラウドAIで対応する。

このようにPALROは、フロントエンドとクラウドの2つのAIを活用するハイブリッドAI構造になっている。

PALROは、本体のAIをクラウドAIで補足するハイブリッドAI構造

違和感のない会話を制御するフロントエンドAI

富士ソフトが開発した独自技術のフロントエンドAIは、人に対するPALROのコミュニケーション行動を最適に制御する。つまり、相手としっかり向き合い、言葉を発する際は適切な間や抑揚を保ち、話の内容に適したタイミングでテンポよく身振り手振りをする。さらに、相手の趣味・嗜好などを記憶し、過去の知識、経験を踏まえながら会話する。こうしたコミュニケーション行動は、相手に安心感をもたらし、人間らしい会話感を出すことにつながる。それを司るのがフロントエンドAIであり、人同士の会話のような違和感のない会話をPALROにさせている。

たとえば、「天気を教えて?」と話しかけると0.4秒で「天気ですね」と答える。会話では応答時間の長短がコミュニケーションの円滑さを左右する。会話しているロボットの発話に少しでも間があけば、人は会話が嫌になり止めてしまう。しかし、フロントエンドAIならば相手の話しかけに短い応答時間で対応できる。また、話の中で必要と思われる詳細な情報はクラウドAIに随時アクセスしながら会話を続けていく。

高齢者福祉施設で活用されるPALROビジネスシリーズ

PALROビジネスシリーズがもっとも多く導入されているのが高齢者福祉施設で、全国600カ所で活用されている。PALROの基本機能は会話、歩行、記憶、インターネットやクラウドへの接続であり、歌やダンス、クイズ、ゲーム、体操、レクリエーションの司会・進行などの機能も装備されている。

PALROは会話を通じて話相手と友達になれる。「○○さん、おはようございます」と個別に利用者を認識して声をかける。友達は100人以上登録でき、性別、年齢、誕生日、趣味・嗜好なども記録するので、各人に適した話題をちりばめて会話できる。

レクリエーションの機能は、365日、日替わりで対応できるほど多様なコンテンツを備え、体操の機能の中には、PALROを用いた実証実験「転倒予防・体力向上運動プログラム」をもとに開発され、介護予防効果が証明された体操も搭載してある。

富士ソフトがハイブリッド構造のAI を開発したのは、「PALRO本体に持つフロントエンドAIとクラウド上のAIと のリンクをきちんと取りながらハイブリッドで駆動していないと最適なAIサービスを提供できない」(渋谷正樹常務執行役員プロダクト・サービス事業本部長)という考えからだ。

PALROは相手に傾聴、同調し、共感するロボットである。そのためには、まず相手を正確に認識することが重要だ。そしてリアルタイムに人を追従し、認識しながらさまざまな会話をする必要がある。そこで、話す相手の目、鼻、口、輪郭などの特徴的部分を高密度にマッピングして顔と名前を一致させ、コミュニケートする相手が誰なのかを認識してから、相手の性別、年齢、誕生日、趣味・嗜好などの属性情報を加味しながらさまざまな話題で話かける。

話す相手の顔の特徴的部分を高密度にマッピングして誰なのかを認識する

会話中の相手を常に分析する

PALROは、常に会話中の相手を分析する。たとえば、特定のテーマへの問いかけに、答える相手の表情や声質、レスポンス速度などからそのテンションを分析。そこから、そのテーマに対する利用者の嗜好性や人気の度合いなどのデータが得られる。

「あるテーマについては、毎日決まった時間に話しかけるように設定しています」(渋谷常務執行役員)

そこから多くの利用者の声(反応)を収集し、テーマへの情報をデータとして蓄積する。特定のテーマは高齢者に非常に興味深いものでも、身体的機能の低下のためそれに対してのテンションが常に下がり気味になってしまうという。そうしたテンションについての情報をPALROとの会話を通じ多くの人から収集・蓄積しており、将来的にはそのデータをクラウドAIでの分析で、特定のテーマに対してモチベーションを向上する方策も可能になるだろう。高齢者福祉施設での多忙を極める状況下でも、現場スタッフは利用者1人ひとりの情報をしっかり把握している。そこでさらに特定のテーマに対してPALROとの日常会話に含まれるひと言やテンションをAIで分析し、テンション低下からモチベーション向上へと転換させる提案(=新しい価値の提供)ができれば、PALROはIoTの環境下でその役割を大いに発揮することになる。

「今後、スタッフの方々が直接聞き取れないような子細な情報を収集・蓄積する中で改善案などが提供できるようにもなると思います」(渋谷常務執行役員)

そのために現在、フロントエンドAI で収集したビッグデータをクラウドAIで解析し、それをPALRO導入施設にフィードバックする検討を始めているという。

「これからも高齢者福祉施設の抱える課題について、AIやITで解決したいと考えています。PALROの介護保険適用など制度面も含めて改善していく必要があると思います。また、今はあらゆる分野でAIテクノロジーが求められていますので、新たな分野にも提供していきます」(同)

高齢者福祉施設に続き、富士ソフトは金融機関など他の産業分野にもPALROを幅広く展開していく予定だ。

  • その他、コミュニケーションロボットをめぐる動き
    独自シナリオによるカスタマイズ化で他社と差別化できる対話型ロボット
    ~NTTドコモ/エスビー食品~

NTTドコモの会話基盤技術をタカラトミーのコミュニケーションロボット「OHaNAS(オハナス)」に搭載した、企業向け会話型の ロボットサービス「おしゃべりロボット for Biz」が提供された。企業のオリジナルシナリオを実装することで他社との差別化が図れ、大手食品メーカーのエスビー食品も全国のスーパー、ショッピングモールでOHaNASによる販促を展開している。

  • 銀行の店舗で窓口業務をサポートするロボット~NTTデータ~

NTTデータは、ヴイストンのコミュニケーションロボット「Sota(ソータ)」 を用いて金融機関店舗における顧客対応支援の実証実験を2015年11月から重ねている。 金融機関の窓口に行くとロボットがサービス内容を案内し、店員に代わって来店客の質問も聞く。そんな実証実験を重ねながら、サービスロボットが得た来店客との会話データをもとに、新しいサービスを提供する可能性も見えてきた。

  • 大手エレクトロニクスメーカーが次々とリリースするサービスロボット&新ビジネス
    ~NECプラットフォームズ/富士通~

IoTの時代を見据えて大手エレクトロニクスメーカーが次々とサービスロボットおよび関連サービスをリリースしている。2016年5月に富士通がコミュニケーションロボット「ロボピン」を発表し、7月にはNECプラットフォームズが、ロボットをユーザーインターフェイスにした「オープンプラットフォームPaPeRo i(パペロアイ)」で新しいビジネスを始めた。

富士通の「ロボピン」(左)、NECプラットフォームズのPaPeRo i(右)

<連載>

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