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「叩けよさらば開かれん」自ら動き、産学連携を加速させる植木 賢<連載第3回(全4回)>

2018.03.14

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自動車整備用機器などの製造販売企業と連携し、医療用ドリルを開発

鳥取県・米子エリアに本社を置く株式会社ビッグツール(鳥取県西伯郡日吉津村)は、自動車整備用機器や産業用機器の製造販売を手がける企業です。ある日、同社の製品であるステンレス板に穴空けが可能な「月光ドリル」をテレビの特集を通して知ることに。この製品を見た瞬間、「この技術は医療機器に必要だ!」と興奮しましたね。いてもたってもおられず、早速、同社に連絡し、訪ねていきました。

もしかすると、読者のなかには「とても行動的だな」と思った方もいらっしゃるかもしれません。いえいえ、実際はそんなことはないのです。私は昔から引っ込み思案でしたが、ある弁理士の先生との出会いが私を変えました。先生とは鳥取大学に講演会の講師としていらっしゃったのを機にお会いし、交流が始まりました。感銘を受けた言葉が「叩けよさらば開かれん」。「したいことがあるなら、まずは叩いてみなさい。叩いてみなければ何も始まらない」そんな意味が込められた言葉です。先生は「不作為の罪」という言葉も教えてくれました。「何もしないこと、それ自体が罪である」という意味ですね。鳥取県の衰退を傍観していること自体が罪ではないか。私を行動させるエネルギーのひとつとなった言葉です。

話を開発に戻します。同社社長の新井高一氏は「米子を世界に誇るドリルの城下町にしたい」という夢を持っており、すぐに意気投合。早速、医療用ドリルの開発が始まりました。同社のドリルを見たときに思いついたことが「削る際の摩擦による発熱を従来のドリルよりも抑えることができるのではないか」ということ。発熱によって発生する骨の壊死を防ぐことができれば、医療界にとって画期的なものになると思いましたね。

鳥取県産業技術センターの協力のもと、科学的にドリルを検証する日々が始まりました。最初、牛の骨で実験をしたところ、とても示唆に富む結果を得ることができました。次に豚の骨を使用して、壊死した部分を面積で比較し、本当にこのドリルが摩擦による熱を抑えているのか検証を繰り返していきました。このような科学的評価は、思いの外難しく、時間を要しましたが、足かけ3年半で完成となりました。こうして「早く穴があく」「すべらない」「熱が上がらない」という革新的な機能を有する医療用ドリル、名付けて「月光プレミアムドリル」を2017年9月に上市したのです。

出口戦略を見据えて企業をサポートする体制が必要

株式会社ビッグツールをはじめとしたこうした取り組みが奏功し、鳥取県内の医療機器製造業・製造販売業の許可取得件数は、2013年頃と比べると、2017年には4倍に増加しました。ベンチャー企業との取り組みも増えてきましたが、販売先の確保などを含む出口戦略を視野に入れた連携の必要性を感じています。というのも、たとえ製品が上市されても、企業が自走することがなければ、意味がないからです。ここでポイントとなるのが、開発している商品のテーマ。顧客の悩みを本当の意味で解決する本質を突いたものでなければ、市場で支持されず、結果として退出を余儀なくされるからです。

EV(電気自動車)が普及したことで、ブレーキが減らなくなったことはご存じでしょうか。これ自体は、とても素晴らしいことでしょう。しかし、これにより、ブレーキ製造する企業の仕事がなくなる事態に発展しているとは、なかなか想像できないのではないでしょうか。何が言いたいのかというと、「車はガソリンで走るものだ」という今までの常識が通用しない社会で私たちは生きているということです。

当然のことですが、医療器機にも製品ライフサイクルがあります。今やっていることがこれからも通用するとは思ってはいません。旧来の価値観を守ることは大切ですが、時代の変化に合わせていく柔軟性が必要ではないでしょうか。企業と連携した医療機器の開発の経験は、そのことも私に教えてくれたのでした。

次回は、鳥取大学医学部付属病院が行うイノベーション教育について解説します。

<連載第3回・完>


植木 賢(うえき・まさる)
鳥取大学医学部付属病院 新規医療研究推進センター 研究実用化支援部門長 教授
医学博士
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本内科学認定医
日本肝臓学会専門医
日本消化器病学会専門医

1972 年 鳥取県生まれ。平成10年大分医科大学医学部医学科卒業、平成17年鳥取大学大学院医学系研究科修了。平成21年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター講師、平成24年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター特命准教授、平成24年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター特命准教授、平成26年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター(現新規医療研究推進センター)教授、現在に至る。

◇主な著書
『肝疾患診療のコツと落とし穴』(中山書店/植木賢共著)2015年1月刊

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