BreakThrough 企業インタビュー

原因不明の症状の治療につながる「マイコプラズマ感染症」の診断技術エムバイオテック株式会社

2019.04.11

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新価値創造展2018(主催:独立行政法人中小企業基盤整備機構)にて、「新価値創造賞」を受賞。幅広い医療分野への応用の可能性が高く、感染症予防という社会的な問題に対して、画期的かつ統合的なアプローチに取り組む姿勢が評価された

summary

  • マイコプラズマ感染症は風邪症状以外にも、難病を含むさまざまな症状の原因となる
  • マイコプラズマ感染症の解決策として最先端の予防医療技術を確立。早期診断やワクチン開発に活かす
  • マイコプラズマ感染症の正しい知識を広め、公衆衛生や産業医療の観点から、診断・治療・予防対策に取り組む体制整備へ

様々な疾病の原因となる「マイコプラズマ感染症」の脅威

「マイコプラズマ感染症」は、長引く咳などの呼吸器症状を引き起こすことで知られており、急性気管支炎や肺炎の原因の多くは、マイコプラズマだと言われている。
一方で、マイコプラズマが、呼吸器以外にもさまざまな症状を引き起こすことを、ご存知だろうか? 例えば、長引く疲労(慢性疲労症候群)、うつ、ぜんそくやアレルギーなどの症状にも、マイコプラズマが関わっているケースがある。さらに近年、リウマチ性疾患や線維筋痛症、特発性間質性肺炎などの難病の原因の一つが、マイコプラズマであることもわかってきた。
感染が長期化・慢性化したり、繰り返されたりすることで、多様な症状が出現し、数カ月~数十年かけて、難病化していくのがその特徴だ。重症化させないためには、早期に感染を見極め、抗菌剤の投与などの適切な治療を行うことが大切である。

同社の提唱するマイコプラズマ感染症に関する画期的な疾患概念「マイコプラズマ感染症スペクトラム」。マイコプラズマ感染症は、肺炎だけでなく喘息・関節炎・腎炎・髄膜炎・脳炎・膵炎・肝炎・皮膚炎などの多彩な症状を呈し、神経免疫難病など有効な治療法が確立されていない疾患の原因となっているケースもある

困難だったマイコプラズマ診断の技術を確立

このように、さまざまな症状との関わりが認められているマイコプラズマ感染症だが、通常、医療機関を受診しても、この診断名に至ることはほとんどない。その理由は、現状の“検査方法の限界”のためだ。現在、一般的に行われている検査方法は、検出感度が低く、急性期の一部を捉えることはできるが、慢性化してしまった感染は捉えることができない。そのため、症状だけでは、マイコプラズマが関係しているのかどうかを見極めることが困難なのだ。

エムバイオテック株式会社代表で、医学博士でもある松田和洋氏は、1979年に入学した山口大学医学部時代から、免疫をテーマに探求し、原因不明とされてきた難病の原因究明と治療に取り組んできた。大学院時代に、多くの症状に、マイコプラズマ感染症が関わっていることを突きとめ、東京医科歯科大学微生物学教室助手、ジョンズ・ホプキンス大学および米国国立衛生研究所留学、国立がんセンター研究所主任研究官を経て、2005年に同社を設立。2012年に、千葉大亥鼻イノベーションプラザに入居し、研究所「マイコプラズマ感染症研究センター」を設置。千葉大学や山口県立総合医療センターなどと連携しながら、マイコプラズマ感染症克服のための技術の開発と実用化を図っている。
この約40年に渡る研究の中で、松田氏が開発したのが、マイコプラズマ診断の新技術だ。マイコプラズマに特異な抗原を特定し、その化学合成に成功したことにより、精度が高い革新的な診断薬を作ることを可能にした。

そもそもマイコプラズマは、細胞壁を持たず、細胞やゲノムが非常に小さいという特徴を持つ微生物(分類上は細菌)だ。その性質ゆえに、人の免疫システムから逃れやすく、さらに、血液から血管壁を通り抜けて、全身の組織の細胞に入り込み、自己増殖して周囲に炎症を引き起こす。
松田氏は、このマイコプラズマに特異な抗原を特定し、さらに、その抗原物質と全く同じ立体構造物質の化学合成に成功する。これを使って、マイコプラズマの抗体価(抗原に反応できる抗体がどれくらい存在しているか)を正確に測定することで、症状のない感染時期から微小な感染状態の変化を把握できるようになったのだ。この技術の確立により、既存の検査方法では、マイコプラズマ感染症であると診断できなかった患者にも、抗菌剤を処方する治療が可能になった。また、定量的な抗体の測定が可能なため、急性期のみではなく慢性期の病態の変化を診断することができるという。治療は、マイコプラズマに効果のあるマクロライド系の抗菌剤を、数か月単位で服用し、様子を見ていく。現在、この技術を用いた検査は、国内に約50ある指定医療機関で自費診療にて提供されている。

症状が現れていなくても、感染していることがある、この未病あるいは症状のない無症候の状態から微小な感染状態の変化を把握できるようになった。これにより、病気とは診断されない未病の状態での早期診断と発症予防治療が可能となってきた

治療・予防のためのワクチンも開発中

さらに、この抗原物質をもとに、マイコプラズマ感染症の治療および予防に用いるワクチンを開発中である。すでに研究室の動物実験レベルで安全性と有効性が確認されており、この技術は、国内の多くの大学、国立感染症研究所、産総研、全農などの研究成果として、日本をはじめ、欧米やアジア諸国で特許を取得した。製剤化されヒトでの安全性と有効性が確認できれば、これまで原因不明とされてきた多くの症状の治療と予防につながるという。

マイコプラズマに特異な抗原物質の研究から見えてきた免疫学の最先端の知見に基づき、治療および予防に用いるワクチンを開発中

マイコプラズマは、人から人へ、咳、痰、唾などで飛沫感染する。秋から冬に感染が増え、松田氏によると「気管支炎や肺炎症状の、5人に1人はマイコプラズマ」であるほどの、身近な感染症だ。軽症のまま治ることも多い一方で、その脅威が静かに進行し、蔓延しているという認識は広まっていない。「現在は、マイコプラズマ肺炎だけが、把握すべき感染症に法律で指定されているが、マイコプラズマを原因とする肺炎以外の疾患も指定されるようにと希望している。マイコプラズマ感染症の検査への認知度が高まり、日本発世界への、グローバルな包括医療につながっていくことを期待したい」と松田氏は語る。

事業推進には、多額の資金が必要となる。当面は、AMED(日本医療研究開発機構)の支援などで賄う計画だが、一刻も早く、このマイコプラズマの脅威に、国としての対策がなされることを望んでいるという。マイコプラズマ感染症の診断・治療・予防技術を、必要としている人に、しっかりと届けていくことのできる仕組みができるよう、力を尽くしていくとのことだ。

取材日:2019年2月6日

企業情報

エムバイオテック株式会社

マイコプラズマ感染症(MID)対策への解決策としての最先端の予防未病医療を提案。また次世代ワクチンなど創薬関連新技術/新治療手段についての特許や技術を有する。予防医療社会へ向けてMIDの視点から世界をリードする革新的な解決策を提案。グローバルなマイコプラズマ感染症医療ネットワークの構築を進めたい。

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