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「ものづくり」環境の大きな変化に対応。生産性向上に寄与する新しい生産システム「クラウドマニュファクチャリング」株式会社日立製作所

2019.02.28

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日立製作所 研究開発グループ 生産イノベーションセンターの寺前俊哉氏

summary

  • 優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献
  • デジタルソリューションをグローバルに展開
  • 今までの「ものづくり」を見直し、革新することで生産性向上に寄与

日立製作所は、1910年の創業以来、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、時代とともに変化する社会の課題解決に取り組んでいる。同社は自主技術によるプロダクトの開発・製造という「ものづくり」から事業を展開。その過程で必要となる製造現場の機器開発・製造やシステムを動かす制御・運用の技術を磨いてきた。
高度成長期には、インフラを支える大規模なシステム構築に注力。情報技術(IT)の開発に積極的に取り組むことで、近年はAIやビッグデータ分析、IoTといった革新的な技術を活用した、デジタルソリューションをグローバルに展開している。

「ものづくり」環境の大きな変化に対応

100年以上の歴史を有する同社が、現在、直面している課題がある。それは,世界的にもいえる「ものづくり」環境の大きな変化だ。この変化は、以下のような状況が要因として挙げられる。
〇製造や技術開発における熟練技術者の減少
〇消費の多様化による、商品開発サイクルの短期化
〇商品の価値もモノからコトへとシフトが進展
〇新興国の経済成長に伴う、労働環境の変化
〇海外でも「ものづくり」の現地生産が進展
また、上記の状況と並んで、世界では産業・社会のインフラのデジタル化が急速に発達した。そこで、同社はデジタルソリューションによって、この「ものづくり」環境の大きな変化に対応すべく、新たな生産システムを考案した。それがリソースを共有し「ものづくり」を最適化する生産システム「クラウドマニュファクチャリング(Crowd Manufacturing)」だ。同社研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 生産イノベーションセンターの寺前俊哉氏に、この新たな生産システムについてお話しを伺った。

4Mリソースを融通し、生産性向上を図る

「昨今、『ものづくり』を取り巻く環境は、顧客ニーズの多様化やIoT時代への本格的な突入とともに大きく変化しています。例えば製造設備の遠隔監視データ×AIを活用した製造ラインの流れの最適化や、工場間をデータでつなぐことで生産性向上を図る動きが高まっています。また、国際的に見て日本はROA(総資本利益率)が低く、当社でも課題となっており、このことも先述の『クラウドマニュファクチャリング』を推進する大きな要因となりました。加工設備を有効に活用し、稼働率を上げるこの新しいシステムは、『生産性向上』『ROA向上』という観点から見て、可能性を秘めていると思います」と寺前氏は語る。

日本の中小企業のROA(総資本利益率)は諸外国と比較すると低いのが現状
(出典:内閣府「平成25年度 年次経済財政報告」)

「ものづくり」に関して、従来の製造業では「設備(Machine)・人(Man)・材料(Material)・工法(Method)」といった4Mリソースは各生産拠点が自前で確保する、というクローズドされた生産環境であった。
しかし同社が提案する「クラウドマニュファクチャリング」は複数の工場・企業の生産リソースをオープンな環境でつなぎ、事業環境の変化に応じてバリューチェーンを最適化。4Mリソースを必要に応じて融通できる。工場・企業間で生産情報を共有し、生産リソースを相互融通する「ものづくり」環境を形成することができる新しいシステムだ。

従来の製造方法をオープン化し、4Mリソースを必要に応じて融通

人や設備に依存しない、フレキシブルな製造環境の構築のために

「クラウドマニュファクチャリング」は複数の事業所の製造設備を可視化し、相互利用を可能にする生産能力(アセット)のシェアリングプラットフォームとなる。
「例えばA工場の稼働率が低下したら、B工場に生産を移行する、といったことが可能になります。A工場に多くのオペレーターが所属していても、通常、その方々はA工場の専任です。B工場でオペレーターが必要になったとしても、B工場はオペレーターを自前で確保せねばならず、採用などに時間がかかってしまいます。オペレーターという人材を融通し合えばいいというのが『クラウドマニュファクチャリング』の考え方です」と寺前氏は続ける。

ただし、この生産能力(アセット)のシェアリングのためには、人や設備に依存しない製造技術の構築が課題となる。この課題解決のために、同社は「加工デジタルレシピ」と名付けた、業務プロセスの標準化を推進している。これにそって製造を進めれば、「だれがどこでどの設備を使用した場合も、同じ品質が確保できる」というのが「レシピ」たる所以だ。加工デジタルレシピ活用により、熟練技術者・設備に依存することなく、海外を含めた複数の拠点で同品質の技術を実現する「ものづくり」が可能になる。

技術開発をさらに進めて「ものづくり」に変革を

現在、同社ではその一つとして、「熟練者と同等に切削加工品質を確保できる切削加工の誤差補正技術の開発」を進めている。熟練者の加工ノウハウをデジタル化することで、切削加工機、工具、素材形状などに応じた制御プログラムの自動補正が可能になる。
今後はさらに、切削加工の深化を進めていくとともに、他の金属加工技術にも展開を推進している。技術展開がいっそう進めば、「ものづくり」の世界にさらに大きな変革が訪れるだろう。

「クラウドマニュファクチャリング」は、同社の社内事業として推進してきたが、現在は社外からも注目され、興味を持った企業から引き合いがあるという。これは世界的に見た「ものづくり」環境の大きな変化に対応すべく、認識を深めようとしている企業が増えている証ともいえる。
また、国内はもちろんのこと、日立製作所ではグローバルな展開も見据えている。寺前氏曰く「技術者の熟練度によらずに「ものづくり」の品質が確保できる、というメリットがあるのであれば、新興国の方がこうした新しい動きを受け入れる可能性は高いかもしれません」とのことだ。

中小企業同士が連携する未来

日立製作所の「クラウドマニュファクチャリング」は、設備利用の最適化を図り生産性を向上する、という考えから社内の取り組みとして考案されたものだ。
生産性の低さや人口減少に苦しむ国内企業にとって、今後グローバル企業と渡り合っていくには、企業同士が「クラウドマニュファクチャリング」でつながり、リソースの効率化やノウハウの標準化を図っていくことが一つの解決策となるだろう。また来たるべき未来を示唆しているようにも思われる。
大企業と比較して大きな設備投資が難しい中小企業も、共同体を形成し「クラウドマニュファクチャリング」でリソースを融通すれば、個社では対応しきれないような大規模な受注にも対応可能だ。まだ、具体的な事例にまでにはなっていないものの、社外からの導入に関する問い合わせを受けるケースも出てきているという。

「クラウドマニュファクチャリング」の「クラウド」は、インターネットサービスに使用される“Cloud=雲”でなく“Crowd=群衆、集団”を意味している。連携・協力を示唆するこの名称が、今後「ものづくり」の重要な道標となるのではないか。

取材日:2019年1月28日


企業情報

株式会社日立製作所
日立製作所は、AIやビッグデータ分析といったデジタル技術に加えて、制御・運用技術やプロダクトを有する、世界でもユニークな企業です。この強みを最大限に生かして、より付加価値の高い社会インフラをはじめとするデジタルソリューションをグローバルに提供し、社会課題の解決に取り組んでいます。これからもお客様やパートナーとの協創を通じて、人々のQuality of Lifeの向上と、持続可能な社会の構築に貢献することで、SDGsの実現に向け邁進していきます。

■日立製作所の取組みの一例
日立製作所では、グローバルに事業を行う産業分野の顧客が抱える課題を、摸擬現場とシミュレーションを用いて解決する「オープンオートメーションラボ」を設置しています。ものづくりの工程を実機で確認できるため、課題解決に対する議論をより深く行うことができます。

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