BreakThrough 発想を学ぶ

クラウドファンディングを活用することは、効率のいいマーケティングといえる玉城 絵美/早稲田大学准教授

<連載第3回(全4回)>

2019.04.23

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玉城 絵美氏は研究者(現在、稲田大学理工学術院准教授)の立場でありながら、自身で起業(H2L株式会社)に関わった経歴を持ち、現在も同社の創業者として多くの事業に携わっている。玉城氏の起業にかける想いとはどのようなものだったのか。また研究者として起業することの意味とは。第3回目は、同社の創業から今後の展望についてなど、玉城氏の研究者と起業家としての観点からお話を伺った。


自身の起業における想いとは

起業では、研究装置を普及させて自分自身がほしいと思うサービスまで落とし込まないといけない、という部分が苦しかったですね。私は「研究装置をつくらなければいけない」という使命感から研究者になりました。同じように、その先に「研究装置を社会普及しなければいけない」という思いがあり、起業しました。既存の企業で、私が取り組もうと思っていたことを「ぜひ、やりたい!」という企業があればお任せしたいと思っていましたが、「まあ、ないだろうなあ…(笑)」と。
企業が取り組むにしては、チャレンジングなので、そもそも今の日本で新しいインターフェースをつくって販売しようとするところは少ないでしょう。特に日本の企業は、ブラッシュアップは得意なのですが、もっと大元の「今までにないものを開発する、それを受け入れる」という土壌があまりないように感じます。それで、「これは自分でやらないと世界に出していけない」ことがわかったので、大学院の修士から博士の間に経営方法、特許、マーケティング手法などの勉強や公開講座などに行って起業をするための準備をしました。
私がイメージする研究者は、“自分が大好きなもの”、“研究したいもの”を追求していくのだと思うのですが、私自身はまったく違う人間なのだと思いますね。逆にビジネスをしている方、起業家や経営者は「こういう事業開発がしたい」と思って、技術取得をしていきます。そちらの方が近いと思います。ただ私の場合は、研究者として新しい研究成果を生み出していかないとならないため、その研究を「ビジネスに落とし込む部分」は、現在は弊社代表の岩崎や社員たちが一生懸命、頑張ってくれています。

大学で勉強することも、会社を起業することも、玉城氏にとっては、自分の研究開発を進めていくための過程だったのだ。そして自身の研究開発が学会などで注目されたものの、実際にどのぐらいのニーズがあるかは見当がつかなかったという。そこで一計を案じ、クラウドファンディングで世界的にニーズがあるかをマーケティングすることにした。これならば市場調査をしながら、資金も集めることができる。

自身の開発にニーズがあるかを探る

2015年に「アンリミテッドハンド」を開発しました。これはポゼストハンドをもっと一般の開発者や研究者向けた、汎用性の高い装置です。この「アンリミテッドハンド」が、世界的にニーズがあるのかマーケティングするために、クラウドファンディングを使うことにしました。アメリカで最も有名なキックスターターというクラウドファンディングサイトです。2カ月間のクラウドファンディング期間があるのですが、22時間ぐらいで達成しました。このサイトでは、世界のどのエリアでニーズがあるのかもわかるのです。ニーズのあるエリアをターゲットにして製品をつくって、そこに住む人たちが好きそうなものを普及させていく計画を立てました。

「アンリミテッドハンド」は、クラウドファンディングサイトで発表された

このやり方は効率のいいマーケティングだと思います。立ち上げたばかりの小さな会社がマーケティングに多くのコストを払うことはできないので。中小企業の皆様が、大企業のようにマーケティングのコストをかけず、こうしたクラウドファンディングサイトに参加して、世の中のニーズを探ることは大変有効だと思います。またキックスターター経由で市場からは「アンリミテッドハンドの入力センサーのみの製品をつくってほしい」という要望がありました。このように開発した装置をマーケティングするとフィードバックされて新しい製品の開発にもつながります。

市場からのフィードバックによって開発された「FirstVR ファーストブイアール」

技術開発のための費用を募るなど、クラウドファインディングの可能性はさらに広がりをみせている。大手企業のようなブランド力はなくとも、コアアイディアに共感が生まれれば、資金を十分に調達することも可能だ。クラウドファンディングでマーケティングを行い、資金も短期間に集まった同社。その歩みは順風満帆のように見えるが、事業を行う上での難しさはあるのだろうか。ラストの次回は、そのことにも触れながら、今後ものづくりにおいて、どのようなアイディア・発想が求められるかなどを中心にお話しを伺っていく予定だ。

取材日:2019年3月14日

<連載第3回・完>

 

連載

第一回 「部屋にいながら外に出ること」を実現するため、新たなインターフェースを開発することに

第二回 ポゼストハンドは、医療や福祉をはじめ、様々な分野に活用できるインターフェース

第三回 クラウドファンディングを活用することは、効率のいいマーケティングといえる

第四回 中小企業と大学が連携し合って、Win-Winの関係になることが理想


玉城 絵美(たまき・えみ)

1984年沖縄県生まれ。2006年琉球大学工学部情報工学科卒。2008年筑波大学大学院システム情報工学研究科修士課程修了。2009年東京大学エッジキャピタル(UTEC)にてシーズ探索インターン。2010年 Disney Research Pittsburghにて研究に従事する。
2011年コンピュータが人間に手の動作を制御する装置「ポゼストハンド」を発表、多数の学会で注目を浴びる。「ポゼストハンド」は、米国のCNNやABCで報道され,『Time』誌が選ぶ50の発明に選出される。同年,東京大学大学院にて博士号取得。「東京大学総長賞」受賞と同時に総代をつとめる。
研究用装置を研究者に提供し消費者へ共有するため,2012年にH2L株式会社を創業。2013年 早稲田大学に移籍し,研究活動も継続。2015年 KickStarterにて世界初触感型ゲームコントローラ「アンリミテッドハンド」を発表し22時間で目標達成。さらに同年 「日経ウーマン ウーマンオブザイヤー準大賞」受賞。2016年 「WIRED Audi Innovation Award 2016」、「日経ビジネス 次代をつくる100人」、「科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) ナイスステップな研究者(科学技術への顕著)賞」受賞。同年から内閣府 総合科学技術・イノベーション会議、科学技術イノベーション政策推進専門調査会にて第5期科学技術基本計画の総合戦略に関する委員を務める.2017年 外務省 WINDS(女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ)大使に任命される。2019年現在は、早稲田大学理工学術院准教授を務めている。

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