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オープンイノベーションのなかで生き抜くために、中小企業は戦略が必要だ元橋 一之/東京大学教授

<連載第2回(全4回)>

2019.02.26

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前回の第1回では、近年、日本の産業競争力が低迷している理由を、生産性の観点から解説していただいた。「モノ」モデルから「ソリューション」モデルへの移行が進む中で、生産性や競争力を上昇させるための糸口も見えてきた。
第2回は、生産性アップのために企業が取り組むべきことについてお話を伺う。第2回のテーマは、「中小企業がオープンイノベーションを生き抜くには」だ。


自前主義からオープンイノベーションへ

「モノ」モデルから「ソリューション」モデルへと移行する社会を俯瞰してみると、モノづくり中心の工業経済から、ビッグデータやサイエンスの蓄積されたデジタル経済(サイエンス経済)への変化が見えてきます。
デジタル経済(サイエンス経済)下で新しい何かを生み出そうとする際、それまでのようにトライ&エラーを繰り返すようなことはしません。データサイエンスに基づいて予測を立て実行に移すので、以前より短期間で成果を手にできる。例えば、従来では高張力鋼板を作るため、スチールにトライ&エラーで化合物を添加していましたが、今は科学により原理が判明しているため、結果を予測して製作ができるようになっています。
ただし、データやサイエンスを活用するためには、当然ながら、専門知識が必要です。たとえ大企業であっても、門外不出の技術やノウハウに固執して自前主義を貫き、サプライヤーを囲い込んで、クローズドでイノベーションを起こそうという考えでは、「ソリューション」モデルの波には乗れないでしょう。モノだけではなくサービスまで広げて戦略を構築する必要があるので、業界を超え専門家や専門事業者と手を結ぶ、オープンイノベーションが求められています。
たとえばトヨタ自動車においても、燃料電池関係特許の無償開放や、巨額を投じてシリコンバレーに研究所を設立、さらには、IT大手のソフトバンクとの提携などから、オープンイノベーションの動きが如実に感じられるでしょう。

大企業がオープンイノベーションを起こし、より進んだ「ソリューション」モデルへと舵を切る時、中小企業はどのように行動すればいいのだろうか。オープンイノベーションの時代を生き抜くために、今から始めることとは。

リードカスタマーの方向性を掴む

オープンイノベーションが進むと、トヨタ自動車のような大企業でも、従来ビジネスからの転換が迫られています。そんな時代に大企業を顧客とする中小企業は、従来ビジネスの延長線上で事業を続けるだけでは安心できません。
中小企業は、まず、顧客企業(カスタマー)、特にその中でも影響力が大きいリードカスタマー企業の戦略を理解し、業界が進む方向性や将来性をつかんでおくとよいでしょう。
たとえば自動車業界の大きな流れとして、今後、電気や水素ガスなど非炭素系燃料を使う技術が進むと考えられています。日本には、ハイブリッドというかなり複雑で高度な技術があります。しかし、電気自動車にシフトすると、こうした金の卵の技術を捨て去ることになりかねません。自動車業界のリードカスタマー企業は、今すぐ電気自動車開発に乗り出すのか、それとも、今までどおりハイブリッド車も含めたガソリン車での技術革新を選ぶのか。
中小企業はこうした動きをいち早く察知して、自社の将来を推しはかることが大切なのです。

リードカスタマーの動きをつかむことは、経営者の仕事だろう。その力量が問われるが、そのほかに中小企業が取り組むべき課題はあるのだろうか。

自社の強みを知る

顧客に目を配る一方で、オンリーワンの技術をもつ中小企業は、自社の強みをよく知ることが大切です。「そんなことは当たり前、もうわかっている」と思われるかもしれませんが、意外と、自社の技術が他社と比較してどう優れているのか、理論的に説明できる企業は少ないものです。原理を科学的に明らかにできれば、異なる業界への展開など、様々な発展が望めます。大学や公的機関に研究・解明を協力してもらうという手段もあります。
また、中小企業だけに限りませんが、昨今は技術やノウハウを持つ人材がたくさん退職する時期です。そうした技術やノウハウは、本来、特定の人材によるものではなく、企業が保有するものでなければなりません。現在、そうした伝承に悩んでいる企業も多いと思いますが、ある程度まではマニュアル化を進め、そのうえでマニュアルに落としきれない細部を人から人への伝承で補うのがよいと思います。
マニュアルを作ることで技術やノウハウが一般化されると、自社の強みが明確になります。そこからさらに、技術を磨き進化させることも可能でしょう。そうして、より独創的なオンリーワン技術が確立されることもあります。

自社の強みはなんとなくわかっているものの、理論的な説明となると、確かにむずかしいのかもしれない。強みの追及は続けるとして、中小企業が次のステップに向かうために、必要なことは何だろう。

自社の進むべき道を行くための戦略を立てる

リードカスタマーの方向性をつかみ、自社の強みも明確になったら、中小企業は、自社の強みを生かすためにどう進めばいいのか、戦略を立ててください。今ある注文に追われ、目の前の仕事をこなすだけではなく、主体的に自社の進むべき道を決めることが経営者、社長の仕事です。
たとえば、リードカスタマーの方向性が従来と変わってきて、そのうち、自社の技術は必要なくなるかもしれないと感じたら、今のうちから、他社に営業をかけるのも戦略のひとつでしょう。それまでは国内企業との取引しかなかったが、海外の企業との商談を進めるのもいいでしょう。
あるいは、自社の強みを説明できれば、これまでと違う業界に、技術を転用することもできるでしょう。1つの技術を、複数の業界にまたがって活用できれば、企業のリスクマネージメントにもつながります。
こうして、自社の技術を違う企業や業界に広げるということは、生産性向上にも大きく貢献します。次回は、生産性を向上させるための方法について詳しく解説したいと思います。

取材日:2019年1月15日

<連載第2回・完>

 

連載

第一回 「モノ」モデル時代と「ソリューション」モデル時代では、生産性向上へのアプロ―チは異なる

第二回 オープンイノベーションのなかで生き抜くために、中小企業は戦略が必要だ

第三回 大学と連携してIoTを進めることで、自社の強みを「見える化」し、生産性を向上させる

第四回 エコシステムのなかで生き残るために、個性輝くニッチプレイヤーを目指す


元橋 一之(もとはし・かずゆき)
東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)

1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。
経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。

◇主な著書
・『アライアンスマネジメント』(白桃書房)2014年4月刊
・『日はまた高く 産業競争力の再生』(日本経済新聞出版社)2014年2月刊
・『グローバル経営戦略』(東京大学出版会)2013年3月刊
・『日本のバイオイノベーション』(白桃書房)2009年11月刊

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