BreakThrough 発想を学ぶ

ポゼストハンドは、医療や福祉をはじめ、様々な分野に活用できるインターフェース玉城 絵美/早稲田大学准教授

<連載第2回(全4回)>

2019.04.18

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前回は、玉城 絵美氏にポゼストハンド開発のきっかけや、その経緯などを中心にお話しを伺った。そして第2回目は、ポゼストハンドが実際にどのように動くか、その仕組みについて。さらにポゼストハンドをはじめとする、VR技術が医療・福祉の現場にどのように活用できるかを中心にお話しを伺った。


「ポゼストハンド」の仕組みについて

ここにあるのがポゼストハンドの試作品バージョン13です。基板を内蔵した箱状の本体と、そこから伸びる電極のついたベルトで構成されており、本体にパソコンを繋いで操作します。

玉城氏が自ら製作した「ポゼストハンド」バージョン13

そもそも筋肉は、脳からの電気刺激で動いています。この原理を利用し、脳から発生する電気刺激に似た電気刺激を腕に巻き付けたベルトに送ります。筋肉は、ベルトから来た電気刺激を脳から来た電気刺激と勘違いして、指が動く。「ポゼストハンド」はこのような仕組みになっています。
使い方としては、まずはベルトを腕に装着し、腕や指を動かすことで電極に筋肉の動き=電気刺激を計測させます。例えば、人差し指が動く場合は、この皮膚の下に人差し指を動かす筋肉があることをコンピュータが学習するのです。約5分間の学習後は、パソコンの画面から動かしたい指や動きを指示することで、人の手を自由に動かせるようになります。

ポゼストハンドで指が動く様子

解剖学の勉強もしていたので、理論的には可能であることはわかっていました。また大学で最初に勉強した複雑系工学の知識が役立ちました。ものをつくることは専門なので、電子系とか設計の技術を生かしながら試作品をつくっていきました。バージョン1の時から指を動かすことができて、その後、弊社代表の岩崎と一緒に試作を重ね、2011年に「ポゼストハンド」を発表しました。

ポゼストハンドは2011年に発表。そして同年、米『TIME』誌の「世界の発明50」に選出される。これまでにない、最先端テクノロジーの象徴として発表後は、瞬く間に注目されることになったのだ。

その新規性や話題性について

ポゼストハンドは希少性があったので学会でも注目されました。ニッチなものとしてのマーケットが十分にあったのだと思います。また、実際につくるのが難しいという面も、大きかったのではないかと。私と同じようなことを思いつく人はいたとは思います。しかし実際の開発にまで進めなかったのではないでしょうか。
生理学とコンピュータのハードウェアの部分と、組み込みといわれる電子の部分、ソフトウェアのAIと呼ばれる部分、これらを全部がわかっていないとつくれないです。私もすべて網羅しているかといえば、そうではありません。ただし一通りの勉強はしてきたので、応用して活かすことができました。

ポゼストハンドが、今後どのように、世の中で活用されていくかは気になるところだ。現在、ポゼストハンドは特許を取得している。しかしながら活用方法については、玉城氏が創業したH2Lが独占するのではなく、様々な研究者や企業へと委ねられているのだ。

様々な分野への活用が期待されている

現在、弊社(H2L)でも医療分野の共同研究を行っているのですが、私自身が入院中に考えついた技術にも関わらず、「医療や福祉に活用できるのでは」ということは今まであまり考えていませんでした。ひたすら外とのインタラクション、情報共有して、体験共有しようと開発していましたので。最近になって医療や福祉の分野で大いに活用できることを、いまさらながら気づきました。インターフェースは、一個つくると、色々なものに使えて応用が効いて、可能性が広がっていきます。

医療や福祉の他にも活用できる分野は、まずゲームなどがあげられます。ゲームを含めたエンターテイメント、後は観光、教育、リモートワーク。またスポーツのトレーニング方法にも活用できます。
トレーナーに身体の動きを見てもらう「パーソナルトレーニング」というのがありますね。トレーナーは筋肉の動きを見ています。身体の動きと角度が違っていたり、大切な筋肉が膨らんでなかったり。そういったことをコンピュータが見られるようになったので、トレーニングに活用したいという声があります。今後は、医療や福祉の現場でリハビリにも活用できるのではないでしょうか。
またポゼストハンドではないのですが、私の研究者仲間で、中村裕美さんという方がいます。中村さんが研究開発しているのが、塩味を再現できる「電流フォーク」です。電流を使って味覚をつくり出す方法を研究して、人工的に食べ物の塩味を味わうことができます。これならば、塩分を制限されている方や、気にされている高血圧の方なども、実際には塩分を摂取せずに塩味のある食べ物を味わえるのです。今後、疾患があって、塩分を制限されている方には大変有効なデバイスであると思います。

玉城氏自身は、「医療・福祉の現場での活用はあまり考えていなかった」ということだが、この研究開発によって、医療・福祉の現場環境、あるいはシステムも大きく変わっていくことが期待される。病室にいながら、リハビリをしながら、色々な場所や様々なものごとを体験することが可能になる。ポゼストハンドが医療や福祉の現場、さらに多くの分野で活用されれば、生活の質の改善という恩恵を受ける人が増え、革新的な変化を迎えるだろう。

取材日:2019年3月14日

<連載第2回・完>

 

連載

第一回 「部屋にいながら外に出ること」を実現するため、新たなインターフェースを開発することに

第二回 ポゼストハンドは、医療や福祉をはじめ、様々な分野に活用できるインターフェース

第三回 クラウドファンディングを活用することは、効率のいいマーケティングといえる

第四回 中小企業と大学が連携し合って、Win-Winの関係になることが理想


玉城 絵美(たまき・えみ)

1984年沖縄県生まれ。2006年琉球大学工学部情報工学科卒。2008年筑波大学大学院システム情報工学研究科修士課程修了。2009年東京大学エッジキャピタル(UTEC)にてシーズ探索インターン。2010年 Disney Research Pittsburghにて研究に従事する。
2011年コンピュータが人間に手の動作を制御する装置「ポゼストハンド」を発表、多数の学会で注目を浴びる。「ポゼストハンド」は、米国のCNNやABCで報道され,『Time』誌が選ぶ50の発明に選出される。同年,東京大学大学院にて博士号取得。「東京大学総長賞」受賞と同時に総代をつとめる。
研究用装置を研究者に提供し消費者へ共有するため,2012年にH2L株式会社を創業。2013年 早稲田大学に移籍し,研究活動も継続。2015年 KickStarterにて世界初触感型ゲームコントローラ「アンリミテッドハンド」を発表し22時間で目標達成。さらに同年 「日経ウーマン ウーマンオブザイヤー準大賞」受賞。2016年 「WIRED Audi Innovation Award 2016」、「日経ビジネス 次代をつくる100人」、「科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) ナイスステップな研究者(科学技術への顕著)賞」受賞。同年から内閣府 総合科学技術・イノベーション会議、科学技術イノベーション政策推進専門調査会にて第5期科学技術基本計画の総合戦略に関する委員を務める.2017年 外務省 WINDS(女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ)大使に任命される。2019年現在は、早稲田大学理工学術院准教授を務めている。

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