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新たな可能性を持つバイオプラスチックで、環境負荷の低減に取り組む三菱ケミカル株式会社

2018.12.20

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生分解性に優れるBioPBSで作られた紙コップ

summary

  • 石油資源からできた製品の代替と新たな付加価値の創造という2方向で研究を進める
  • 異なる機能性を持つ2種類のバイオプラスチックを開発
  • ヨーロッパでの需要に応えながら、日本への浸透も目指す

昨今、マイクロプラスチックによる海洋汚染の問題が注目されている。また、石油資源などが枯渇の危機にさらされていることも、以前から指摘されていた。

1980年代からいち早く、石油資源が枯渇する未来を想定し、環境にやさしい新たな製品の研究開発に取り組んできたのが三菱ケミカル株式会社だ。
同社はグループの総力を結集してこうした問題の解決を模索してきたが、なかでも、バイオプラスチックの研究開発を行っている、高機能ポリマー部門サスティナブルリソース本部企画管理グループマネジャーの漆坂雅弘氏にお話を伺った。

バイオプラスチック事業を担うサスティナブルリソース本部の漆坂氏

バイオプラスチックの研究は、2つのコンセプトを念頭に進められているという。
1つは、石油資源の使用量を減らすこと。たとえば、石油資源由来の原料を、植物由来の原料に少しずつ置き換え、原料中の植物由来比率を上げていくという手法を用いて、石油資源からできた製品の代替品を開発している。
もう1つは、バイオ研究の進展をはかり、従来の石油化学では作れない高機能な製品を創ることだ。単純な代替素材を作り出すのではなく、これまでにないユニークな製品を生みだすことで、まったく新しい付加価値を創造する。

生分解性と再生可能原料率という2つの要素

そもそも「バイオプラスチック」の定義には、2つの要素が含まれている。1つは微生物の働きにより自然に還る「生分解性プラスチック」で、もう1つは植物などの再生可能な原料から生成される「バイオマスプラスチック」だ。なお、これら2つの「生分解性」と「再生可能原料率」という指標に相関性はなく、石油由来の原料を用いていても生分解性の高いものもあれば、植物由来の原料を用いていても非分解性のものもある。

下図は、横軸を「生分解性」、縦軸を「再生可能原料率」として4象限マトリックスにしたもので、左にいくほど生分解性が高く、上にいくほど再生可能原料の比率が高くなっている。

バイオプラスチックのポートフォリオ

前述のとおり、バイオプラスチックとは、「生分解性を持つもの、もしくは、再生可能原料を使用したもの」を指す。上部の図でいえば、第4象限(ピンク色の部分)以外に位置づけられるものがバイオプラスチックと呼べるわけだ。

同社は植物由来原料から、性質の異なる2種類のプラスチック「DURABIO(デュラビオ)」「BioPBS(バイオピービーエス)」の開発に成功しており、それぞれの機能性を生かして販売・マーケティングを進めている。

新しい付加価値を持つ「DURABIO」

同社が開発したバイオプラスチックの1つである「DURABIO」は、非分解性で植物由来のポリカーボネイト系樹脂で、従来のポリカーボネイトにはないガラスのような光沢を持ち、耐久性・耐候性に優れている。元になるイソソルバイドは、石油資源から作るより植物由来原料を用いたほうが容易に精製できることなどを同社が発見し、製品化した。

DURABIOは当初、ガラスの代替品としてテレビ画面に使われるフラットパネルディスプレイ(FPD)などに用いることを想定していたが、耐傷つき性の高さから自動車の内装部品などによく利用されるようになった。また、耐候性に富んで劣化しにくい特徴を生かして、高速道路の遮音壁にも使われている。
バイオプラスチックは、従来のプラスチックと比べるとコストの高さが否めないが、DURABIOは金型成型後の表面が美しく、塗装なしで製品化できるため、作業工程を削減できトータルコストでは遜色のないレベルだという。

常温でも海洋でも生分解できるBioPBS

また、「BioPBS」も同社が開発したバイオプラスチックで、他の生分解性プラスチックに比べて高い生分解性が特長だ。原料はコハク酸と1,4ブタンジオールで、元来は石油資源から製造していたが、コハク酸を植物由来のものに変え2017年5月から商業生産を開始した。2018年現在、タイ石油公社との合弁の工場で年間2万トンの生産能力を持っている。

BioPBSの特長のなかでも特筆すべきは、常温で分解されることだ。一般的なバイオプラスチックは、60℃で稼働する工業コンポストなどではよく分解されるが、微生物の活動が抑えられる常温での分解は非常に難しい。BioPBSはその課題を解決し、加温装置のないホームコンポストなどでもよく分解されるため、従来のものより用途が広がると期待されている。

さらに、海洋生分解性を持つことも確認されている。海中は低温で、分解を促す微生物も少ないため、生分解性プラスチックにはきびしい環境だ。だからこそ、海中のマイクロプラスチックが問題となっているのだが、BioPBSは解決のための一助となるだろう。

今後は、原料である1,4ブタンジオールも植物由来のものに変える予定だ。すでに技術面は確立されており、現在、量産化に向けたテストを行っている。100%植物由来のBioPBSが登場するのは、そう遠くない未来だ。

バイオプラスチックの用途は幅広い

例えば、BioPBSの代表的な用途は農業用のマルチフィルムだ。畝にかぶせて、保湿・保温や雑草の抑制などのために用いる。元々はポリエチレン製のものが主流だったが、農作物を収穫した後、マルチフィルムを回収するのは重労働で、廃棄にもコストがかかる。生分解するBioPBS製なら、土と一緒に耕してしまえば分解され土に還る。

また食品分野では、コーヒーカプセルが注目されるようになった。従来のプラスチック製のものだと、洗浄の手間などがありリサイクルが難しい。しかし、BioPBSを使えば、そのままコンポストに入れるだけで分解され、資源を循環させることができる。

BioPBSを使ったコーヒーカプセル

BioPBSは耐熱性や耐衝撃性にも優れていて、様々な加工法を用いて成型できるため、使い捨ての食器やスプーン・フォークといったカトラリーにも利用されている。現在、世界的に海洋のプラスチックゴミへの関心が高まっているが、こうした小さなものは、リサイクルの網の目をかいくぐり海洋ゴミになりやすいため、生分解性のバイオプラスチックへの注目度が高まっている。

中国によるプラスチック廃棄物輸入規制の影響も

バイオプラスチックへの関心が高まっている背景には、もう1つの見逃せない理由がある。
これまでプラスチック廃棄物の多くは、中国に輸出されていた。しかし2017年末で、中国はプラスチック廃棄物の受け入れを禁止。行き場を失ったプラスチック廃棄物は、マレーシアやベトナム、インドなどへの輸出という道は残されているものの、従来よりも引き取り価格が高騰している。ヨーロッパでは、「高額な廃棄費用が必要なら、多少割高でも生分解性プラスチックを使ったほうがいい」と考える人が増えている。

関心の高まりに応え、バイオプラスチックの普及を狙う

昨今、ヨーロッパでは、法規制化に加え、スターバックスやユニリーバ、マクドナルドなどのブランドオーナーが、使い捨てプラスチックの廃止や削減、バイオプラスチックの導入を積極的に発信し始めた。特に、プラスチックストローの利用をやめると宣言する企業が多く、日本でも同様の意向を示す企業が増えている。

代替品として、同社ではBioPBS製ストローの導入推進を働きかけている。また、紙製のストローにBioPBSをコーティングする取り組みにも協力している。漆坂氏は「紙など生分解されるものや他社のバイオプラスチックとも協力して、それぞれが持つ特徴を補い合い、より優れたバイオプラスチック製品を創り出していきたい」と期待を寄せる。

漆坂氏はさらに「最近のプラスチックに対する議論の盛り上がりが、バイオプラスチック事業のビジネスチャンスであることは間違いない。今後は日本にも広まっていくだろう」と語る。
今後は、食品残さが残りやすい食品包装用のフィルムなどリサイクルが困難な資材や、また、紙おしぼりなどの不織布の製品についても、生分解性の高い植物由来ポリマーへの代替を進めていくという。

取材日:2018年11月20日


三菱ケミカル株式会社

2017年4月に、三菱化学株式会社、三菱樹脂株式会社、三菱レイヨン株式会社の3社が合併して設立された、幅広い商材とマーケットを持つ総合化学メーカーです。高機能ポリマー部門と呼ばれるプラスチック関連事業も主要部門のひとつで、1980年代よりバイオポリマーの研究開発を行っています。昨今のマイクロプラスチックなどへの関心を背景に、日本でもバイオプラスチックの市場拡大を推進しています。

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