BreakThrough 発想を学ぶ

中小企業は低コストのPOCで、社会受容性を判定し、ブレークスルーに挑戦して石川 正俊/東京大学情報理工学系研究科長

<連載第4回(全4回)>

2019.04.11

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前回の第3回は、高速トラッキングの医療分野への応用について、お話を伺った。細胞検査からロボット手術まで多くの可能性を秘めた技術だ。最終回となる第4回は、「中小企業が、最先端テクノロジーの開発に関わっていくにはどうすればいいか」をテーマにお話を伺う。


人間の能力を超えるロボットを作る

私は高速ビジョンなどで、感覚系であるセンサーの高速化を最初に行いました。ですが、それだけではシステム全体のスピードは上がらず、頭脳に当たるコンピューターや、筋肉に当たるアクチュエーターなどすべての高速化を行いました。その結果、リアルタイムフィードバックが可能になりました。特筆したいのは、その中に「予測」は含まれないということです。
最近、高評価をいただいた「じゃんけんロボット」で説明しましょう。人間は、最初のグーからパーを出すのに60/1000秒かかります。じゃんけんロボットは、人間の動きを1/1000秒で認識し、20/1000秒で、最初のグーからチョキを出します。ロボットは判断も動きも人間より早いために、必ず勝てるのです。つまり、高速のシステムがあれば、予測といった複雑な判断をシステムに組み込まなくても、シンプルな認識能力で対応できます。
こうしたロボットは、人間の能力が目標ではありません。人間の30fpsという見る能力を超えた1000fpsの高速ビジョンを作ったように、人間の能力を超え、機械の限界を目標とする必要があります。高速トラッキングを手術ロボットに活用する際も、人間の能力を超えるロボット技術があるからこそ、人間のすばらしい手技が発揮できるのです。

勝率100%のじゃんけんロボット

GAFAのような新しい価値は、日本でも生まれるのだろうか。新しい価値を生むために、私たちは何をすればいいのだろうか。

あとは、アイデアの創出を

こうした最先端のテクノロジー開発は、残念ながら、「日本は、アメリカや中国より遅れている」というのが私の実感です。ですが、これからの時代は、第1回で述べたシンセシスによって新しい価値を創造することが最重要課題です。日本もいつまでも遅れているわけにはいきません。
日本のセンサーやアクチュエーターをつくる技術や、工場でのものづくりの精度は、世界でもトップクラスですから、あとは、アイデアです。また、アイデアを生んで、日本がブレークスルーするためには、中小企業の活躍が欠かせないと考えています。中小企業にはオリジナルの技術があるのですから、技術の転用や別の業界との融合など、これまでと違った方法でアイデアを探してほしいと思います。いつまでもニーズやマーケティングを重視する前例を踏襲していては、21世紀型のテクノロジーは創出できないでしょう。

「日本は遅れている」その現状をよく認識しなければならない。そのうえで、中小企業は最先端テクノロジーの開発にどうかかわっていけばいいのだろうか。

POCで社会受容性を見極める

中小企業が「あったらいいな」を出発点とするアイデアを試作するとき、完成形にこだわっていたら、時間的にも資金面も厳しくなるでしょう。そこで、中小企業の方には、POC(Proof of Concept)をぜひ、取り入れてほしいと思います。POCとは、アイデアを具現化する際、低コストで完成手前の状態を試作すること。
私の研究室でつくったじゃんけんロボットなどはPOCのひとつで、これを私はユーチューブにアップして、社会の反応を見ています。アクセス数や「いいね」の数、また、興味を持った会社から直接オファーが来ますし、ご意見や問い合わせも寄せられます。こうした反応で、社会受容性を判断するのです。社会受容性が高いと判断したら、もっとお金をかけて深く追求すればいいし、社会受容性が低いな、反応が悪いなと思ったら、その研究からは撤退し、次のアイデアを試せばいいでしょう。POC段階の試作品なら、中小企業は得意だと思います。もちろん、重要な発明などの場合、特許処理は慎重に行ってください。

こうして社会受容性の高いアイデアが見つかったら、人や資金などの研究資源を集中させて、研究開発に努めてほしいと思います。
またPOCを判断材料として、社会受容性の高いものに投資するVCなどももっと増えてほしいものです。10回のチャレンジのうち、たとえ9回失敗しても、1つの新しい価値が見つかれば、投資は10倍以上になって戻ってきます。9回の失敗による損失を、打ち消すほど大きな成果が得られるのです。
最後に、私の研究室では、2016年から「WINDSネットワーク」というコンソーシアム形式のプロジェクトを始めました。いまでは180を超える組織が自由でオープンな活動を行い、新たな技術応用の事業化を目指しています。興味のある企業はぜひ、ご参加ください。一緒にブレークスルーを目指しましょう。

連載の結びに

日本はまだ、ニーズやマーケティングを重視して、「あったらいいな」というアイデアの創出が多くありません。ですが、日本には20世紀型のアナリシスや、センサーやアクチュエーターをつくる高度な技術力がありますから、今のうちに、新しい価値を生み出すためのアイデアをたくさん出していきたいと思います。
そのためには、正当な失敗を正しく評価する社会の構築を急がねばなりません。グーグルなどという1つの成功の裏には、実はいくつもの失敗があるはずです。たくさんの失敗を経て、やっと1つの成功が生まれるのです。これからも失敗を恐れず、もっと気楽なチャレンジを続けていきたいと思います。みなさんもぜひ、一緒にチャレンジを続けましょう。

<動画>勝率100%のじゃんけんロボット

取材日:2019年3月11日

<連載第4回・完>

 

連載

第一回 アナリシスからシンセシスへの発想転換と、そうして生まれた新しい価値を、正しく評価する社会に

第二回 高速ビジョンから、システム全体の高速化へ。ヒューマンインターフェイスにも応用可能

第三回 高速トラッキングが、顕微鏡下の作業やロボット手術などの手技をアシストする

第四回 中小企業は低コストのPOCで、社会受容性を判定し、ブレークスルーに挑戦して


石川 正俊(いしかわ・まさとし)
東京大学情報理工学系研究科 研究科長

1977年東京大学工学部計数工学科卒業。1979年東京大学大学院工学系研究科 計数工学専門課程 修士課程を修了し、1988年工学博士(東京大学)。1979年には通商産業省工学技術院(現 国立研究開発法人 産業技術総合研究所)主任研究官を経て、1989年から東京大学工学部計数工学科の助教授。その後、東京大学理事・副学長などを歴任し、2016年より現職。
専門分野は、システム情報学(センサ工学、ロボット工学、画像処理、認識行動システム、生体情報処理)。センサフュージョン、超並列・超高速ビジョン、超高速ロボット、ビジュアルフィードバック、メタパーセプション、光コンピューティング、触覚センサの知能化、生体情報の回路モデル等の研究に従事する。
国内・国際学会などから数多くの受賞歴に加え、2011年11月には紫綬褒章を受章。

◇主な共著書
『ロボット制御学ハンドブック』(近代科学社)2017年12月刊
『情報ネットワーク科学入門』(コロナ社)2015年10月刊 など多数

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