BreakThrough 企業インタビュー

「聞こえ」という社会課題の新たな解決法を提案ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社

<連載第1回>(全2回)

2019.09.19

SHARE
  • facebook
  • twitter

2013年に発売された「comuoon」(コミューン)は、話し手の声の音質を改善することにより、聞く側ではなく話す側から難聴者をサポートするという新発想のアプローチで「聞こえの問題」の解決に取り組んだ「対話支援機器」です。東京都ベンチャー技術大賞、グッドデザイン賞、国際ユニバーサルデザイン協議会の「IAUDアウォード」など多数の賞を受賞した同製品は、すでに病院や介護施設、さらに市役所などの公共施設や銀行の窓口などで幅広く活用されています。この社会に必要とされる新たな価値がいかにして生み出されたのか。開発者であるユニバーサル・サウンドデザイン株式会社の中石真一路代表取締役にお話を伺い、2回にわたる連載の中でその核心に迫ります。


想定外の結果が発想のきっかけに

中石氏が「comuoon」の発想に行き着いたのは、前職のレコード会社で新しいスピーカーを企画していた2010年のことでした。

「慶應義塾大学の武藤佳恭教授が開発していた『音を遠くに届けられるスピーカー』の音を耳にした難聴者が、『聞きとりやすい』と感想を漏らしたのがきっかけです。これをヒントに難聴の方も音が聞き取りやすいスピーカーを開発できないか。そう考えて当時勤めていた会社に掛け合って開発予算を獲得しました」

その後、武藤教授の許可を得て試作品を作り、病院や介護施設で試用者の感想を聞くうちに、難聴者の方々は「音質」に敏感なのではないかという仮説にいたりました。

「そして、難聴者が聞き取りにくいとされる高音域をただ強調するより、音の分解能を高めてクリアな状態にした方が良い結果が出ることを確認。聞こえと音質の関係性が分かりかけてきました。ただそんな矢先、会社から事業化の検討中止を宣告されてしまったのです」

時を同じくして東日本大震災が発生。悲惨な被害状況が伝えられるなか、特に難聴者の死亡率が健常者のほぼ倍に及んだことが中石氏を突き動かします。

「自分たちが進めてきた研究の緊急性を実感しました。『会社がやらないのであれば自分にやらせてくれ』と直談判し、まずは私費を投じて研究開発を行うNPOを立ち上げました」

一般的なスピーカーと「comuoon」の音質を比較したグラフ

モノづくりで大切なのはチームづくり

もとは技術者でも研究者でもなかった中石氏が、なぜ会社を離れて一人でスピーカーの開発を続けられたのでしょうか。そこでものを言ったのが、学生時代に学んだ設計の知識と、その後勤めたゼネコンなどで学んだプロジェクト管理の能力、そして類まれな行動力でした。

「私は、ものづくりはチームづくりだと考えています。『comuoon』も、プロダクトデザイナー、機構や電気回路の設計担当、各パーツの製造担当など、多くの方の力を結集して生まれたもの。まず自分で図面を描いて、『聞こえの問題を解決するために、こういうものを作りたい』と訴えながら、協力してくれる方を増やしていきました」

たまたま知人がプロダクトデザイナーで、回路設計の得意な会社は武藤教授に紹介してもらったものの、後はチームづくりもゼロからのスタート。ネット上の情報をもとにスピーカーやマイクの製造協力会社を検討し、一件一件声をかけて協力を仰いでいきます。端子の製造会社とは、自ら出展した東京の展示会で出会いました。

 

自ら貪欲に学びつつ、専門チームに横串を刺す存在に

チームを運営し、開発を進めていく上では、中石氏の自ら学び、コミットしていく姿勢も大きな力になりました。

「モノづくりでは、外注部分を相手に丸投げすることも少なくないと思います。ただ、私の場合は自分も勉強したいからと各工程に一緒に入る。そうやってすべての知識をきちんと学ぶと、指揮者のようにプロジェクトを的確に管理できるようになるんです。それぞれ専門性を突き詰めているチームのメンバーに横串を刺すことが自分の役割だと考えました」

“深すぎるゼネラリスト”とも評された中石氏の調整能力によって、開発も進んでいきます。時に中石氏の高すぎる要求などが原因となりチーム内に軋轢が生じることもありましたが、利用者たちの喜びを目の当たりにした時にはすべて霧散していきました。

「初めて難聴者を対象にした試作機の試聴会を開催した時は、開発に携わったチームメンバーも、その会の関係者も、実は皆半信半疑でした。そんななか試作機の音を聞いた目の前の難聴者たちが『聞こえる』と言って次々に喜びの涙を流しました」

聴覚障害児を対象とした別の試聴会ではこんなこともありました。

「そこではお父さんに試作機を通して子供に語りかけてもらいました。するとその子が突然泣き出したんです。『どうしたの?』と聞くと、『初めてパパの声を補聴器なしで聞いた』と答えました。自分たちにとって当たり前の『聞こえる』ということが、いかに素晴らしくて美しいことか、これらの試聴会を通じて改めて私たち開発チームも確認し、モチベーションは大いに高まりました」

そしてついに2013年12月、現場でのさまざまな意見をもとに改良を重ねた「comuoon」が完成。社会のさまざまなシーンで広く活用されていくことになります。


連載「課題に寄り添うことで新たな価値が見えてくる」

第一回 「聞こえ」という社会課題の新たな解決法を提案
第二回 課題に寄り添うことで新たな価値が見えてくる


SNSでシェアしよう

関連記事