BreakThrough 発想を学ぶ

大学と連携してIoTを進めることで、自社の強みを「見える化」し、生産性を向上させる元橋 一之/東京大学教授

<連載第3回(全4回)>

2019.03.05

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前回の第2回では、オープンイノベーションの中で中小企業が生き残るために、どうすればよいのかというテーマでお話を伺った。リードカスタマーの動きをつかみ、自社の強みを知って、戦略を立てる、経営者の真価が問われる重要局面だ。そして、この判断が生産性の向上にも結び付く。第3回は、「生産性向上について」詳しく伺っていこう。


生産性向上のために、IoTを駆使する

生産性向上のためにできることはたくさんありますが、重要なキーの1つはIoTの活用ではないかと思います。例として、大企業の取組みを紹介しましょう。

建設機械の大手メーカーである小松製作所は、売ったら終わりの「モノ」モデルを脱し、売った後のデータを集積し分析することで、付加価値アップに成功しました。
コマツの「スマートコンストラクション」として有名ですが、販売・リースしている建設機械のさまざまな部品にセンサーを組み込んでデータを集積し、AIによる機械学習をさせて、たとえば、エンジンの振動数や温度など特定のデータが一定値を超えると故障を起こしやすい、といったデータを蓄積しています。ユーザーが使用中の建機からのデータが、異常値に近付いたら警告音などで知らせる仕組みなどがあり、ユーザーは故障する前に異常がわかれば対処できるので、大いに役立つシステムなのです。
また通常は「2年ごとに交換」などと一律で決まっている部品を、摩耗や変形などの状態(コンディション)に関する計測値を元に、交換時期を知らせてくれるシステムにすることで、多くの場合、メンテナンス費用が抑えられます。
コマツのスマートコンストラクションはほかにも、運転技術のサポートや地形の把握支援など様々な機能を持ち、付加価値を向上させたため、価格競争(コモディティ化)から逃れることができました。結果、コマツは販売・リースなどの売上が増加し、「ソリューション」時代の生産性向上を果たしたのです。
こうした成果をもたらしたのは、数々のセンサー、つまりIoTでした。

IoTの活用は、生産性向上に結び付くのは理解できるが、中小企業が売った後のデータ集積を進めるのはかなり厳しいのではないだろうか。中小企業にこそ、生産性の向上は大きなテーマだ。中小企業が生産性向上を図るためにはどうすればいいのだろうか。

中小企業の生産性向上を支えるのもIoT

中小企業にとっても、IoTは大きなキーとなるでしょう。
ですが残念ながら、IoTに取り組む中小企業はまだ少ないのが現状です。2015年11月に経済産業研究所において行った実態調査では、IoTに「すでに取り組んでいる」企業は、調査した全企業の約1割にとどまりました。ただ、「IoTを知っているが、自社には関係ない」と切り捨てる企業もわずか約1割で、IoTは事業に大きな影響を与えるものだとの認識は、多くの企業が持っているようです。とはいえ、「IoTについて聞いたことはあるが未対応」だと半数以上の企業が答えています。
2016年10月・日本の製造業におけるビッグデータ活用とイノベーションに関する実態

では、中小企業にとってのIoT活用を考えてみましょう。先述のコマツのように、自社製品にユーザー利用に関するデータ集積を行うのはむずかしいと思います。そこで中小企業は、もっと身近なところ、自らの社内から着手するとよいのではないでしょうか。
第2回では、自社の強みを掘り下げることの必要性について述べましたが、もっと深く、自社の技術や業務プロセスを「見える化」するために、データを集めるのだと考えるのです。例えば、生産ラインの設備にセンサーを付ければ、作業効率や不具合の起きる頻度などのデータが取得できるでしょう。

IoTの重要性は理解できるが、自社でセンサーを取り付けたとしても、「得たデータを分析する」ということについても、中小企業には大きなハードルがあるのではないだろうか。

IoTは大学などとの連携で進めよう

とはいえ、自社で様々なデータの集積や解析などを行うのはむずかしい中小企業が多いと思います。そんな時は、大学や公的研究機関の力を借りるとよいでしょう。大学や公的研究機関などは、科学的なアプローチを得意としますし、地域の企業とのつながりもあり、ネットワークづくりの一助となると思います。
今は、大企業も自前主義を脱却する時代です。中小企業が自前のデータ集積・分析にこだわる必要はまったくありません。自社が不得手な分野は、それが得意なところと連携すればいいのです。

中小企業が大学と連携した好例を紹介しましょう。長野県にある株式会社小松精機工作所は、以前は精密部品の組み立て等を行っていました。あるとき、自社の手掛ける業界が衰退していく危機感を覚えたため、自社の技術力の見える化に取り組みました。
自社の保有している加工技術について、原理の科学的な調査・分析を大学に依頼し、共同で学術論文にまとめたのです。持てる技術の科学的根拠を明確にすることは、様々なメリットを生み出しました。
まず、技術の詳細が明らかになったことで、技術を進化させることができ、強みをさらに伸ばすことができました。おかげで、生産性は大幅にアップしました。次に、学界で認められたことで、技術の信用力が格段に上がりました。さらに科学的な原理がわかると、これまでと異なる業界に営業活動を行う際も、技術の説明がわかりやすく説得力を持ちます。そのため、これまでと違う業界へのアプローチに成功し、ビジネスを創出することができたのです。全体として売上げアップに大きく貢献し、生産性も大きく上昇させることができたといいます。
こうした事例は、特別なことではないと私は考えています。オンリーワンの技術を持つ中小企業は、大学などと連携して自社の強みを科学的に「見える化」することで、事業を拡大できるビジネスチャンスに結び付くケースは多いと思います。

取材日:2019年1月15日

<連載第3回・完>

 

連載

第一回 「モノ」モデル時代と「ソリューション」モデル時代では、生産性向上へのアプロ―チは異なる

第二回 オープンイノベーションのなかで生き抜くために、中小企業は戦略が必要だ

第三回 大学と連携してIoTを進めることで、自社の強みを「見える化」し、生産性を向上させる

第四回 エコシステムのなかで生き残るために、個性輝くニッチプレイヤーを目指す


元橋 一之(もとはし・かずゆき)
東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)

1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。
経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。

◇主な著書
・『アライアンスマネジメント』(白桃書房)2014年4月刊
・『日はまた高く 産業競争力の再生』(日本経済新聞出版社)2014年2月刊
・『グローバル経営戦略』(東京大学出版会)2013年3月刊
・『日本のバイオイノベーション』(白桃書房)2009年11月刊

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