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人工知能時代における企業のあり方赤池 学<連載第4回(全4回)>

発想を学ぶ

2018.02.22

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人工知能で代替される仕事、されない仕事

今後、新価値創のための人工知能の活用が重要なテーマになってくるでしょう。ディープラーニングやIoTの登場によって、ビジネスのあり方は大きく変容します。しかし、自動車部品の金型はだれが作るのでしょうか。こうした熟練の職人が持つ繊細な技術は、人工知能には代替されないでしょう。実際に、自動車メーカーは、金型職人の再雇用を進めており、これまで蓄積された知的資本をどのようにして生かすのか、試行錯誤しています。また、製品の川下である検品作業も人に有利だ。高性能な映像システムを使用して検査を行っているメーカーもある一方で、目覚めたメーカーは、人が全品検品を行うようにしています。人工知能が普及しても先端部品であるほど、人に頼るしかないのが現状なのです。

労働者は「創造者」「管理者」「作業者」に分類されます。金型の熟練職人は「創造者」に位置づけられ、人工知能に仕事を奪われる可能性は低いでしょう。一方、「管理者」である製造や営業などのホワイトカラーは、高い確度で人工知能に取って代わられるはず。巷では「作業者」が代替されると言われていますが、先端部品の検品者などは残ると予想されます。

例えば、自動車ビジネスは二極化します。人工知能を使用した無人走行車やエコカーなどのハイテク自動車が登場する一方で、アナログな自動車は支持され続けるでしょう。三重県にあるハイエース専門のカーディーラーは、キャンピングカスタムによって、大きく売り上げを伸ばした会社。釣りやキャンプが好きな人のために、寝泊まりができるキャンピングカーを提案し、カスタム化して販売しています。三重県産のヒノキを内装材に使用するほどのこだわりで、こうなると、自動車は「移動」という本来の価値を超えた製品になります。また、木材を使用することで、森林組合など、多様なステークホルダーにもメリットがあることもポイントです。

私は、「ウィルス経営」が広がっていくとも考えています。「ウィルス経営」とは、もともと生物学者である私が名付けたもので、製造機能を持たずに、DNAだけを送り込んで、自分の分身を作る経営手法のこと。自社の社員を教育するのではなく、お客さまのなかに直接“ウィルス”をつくる方法で、緩やかな協業が増えていくと信じています。

 

利他性とユニークさが企業成長のキーワード

企業のあるべき姿は、「マズローの欲求5段階説」にたとえるとわかりやすい。生き残りをかけてビジネスを展開しているときは、長生きするための技術や飢えないためのサービスが重要ですが、最上級の欲求である「自己実現」までいくと違うステージに到達します。私は、近年、「自己実現」から一歩進んで「自己超越」こそ、企業が到達すべきステージであると思っています。「自己超越」とは、利他性を持った事業モデルを行うこと。社員や取引先、次世代のみならず、生態系にも利益のある事業であるべきです。

「マズローの欲求5段階説」とは、心理学者アブラハム・マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定。人間の欲求を5段階に理論化したものです。人間には「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階の「欲求」があり、1つ下の欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする基本的な心理的行動を表す。


マイケル・ポーター教授は、「ユニークな事業を構想すること」そして「やらないことを決めること」が大切であると説きました。他社が絶対にやらないユニークな事業を構想するためには、デザイン思考を身に付けることです。そして、その新しい事業を社会に実装させるために、過去のネットワークにとらわれず、あたらしいバリューチェーンを構築することが必要不可欠です。ウォルマートは、タバコの販売を辞めて1兆円の売り上げを失いましたが、この意向に賛同した消費者によって、総売り上げはアップしました。資生堂は、ティーンエージャー向けの化粧品は絶対に作らない。というのも、ティーンエージャーの肌それ自体が健康であり、化粧をする必要がないと考えているからです。こうして「やらないこと」を決めていけば、企業のアイデンティティが自然と定義されるでしょう。

<連載第4回・完>


赤池 学(あかいけ・まなぶ)
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長
経済産業省産業構造審議会研究開発小委員会委員
文部科学省革新技術審査委員会審査委員
農林水産省バイオマス・ニッポン総合戦略推進委員
武蔵野美術大学デザイン情報学科講師
早稲田大学環境総合研究センター客員教員
北九州市環境首都リサーチセンター主任研究員
日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査委員
キッズデザイン協議会キッズデザイン賞審査委員長

1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

◇主な著書
『生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術』(NHK出版)2014年7月刊
『自然に学ぶものづくり図鑑』(PHP研究所/赤池学監修)2011年1月刊
『昆虫がヒトを救う』(宝島社新書)2007年10月刊
『昆虫力』(小学館)2006年7月刊
『自然に学ぶものづくり』(東洋経済新報社)2005年12月刊
『ニッポン テクノロジー』(丸善)2005年6月刊
『新 製造業サバイバル論』(ウエッジ)2005年3月刊
『トヨタを知るということ』(日経ビジネス人文庫)2004年11月刊

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