BreakThrough 発想を学ぶ

技術開発において、日本はかつての成功体験から離れられなくなっている畑村 洋太郎/東京大学名誉教授

<連載第1回(全4回)>

2018.10.18

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畑村洋太郎氏は「失敗学」の第一人者。現地を訪ね、現物に触り、現場の人と議論する「3現」をモットーに、企業のものづくりにおける様々な失敗の原因を徹底的に究明し、失敗の知識を有効に活用する活動を展開している。
近著『技術の街道をゆく』(岩波新書)で、日本の技術者に向けたメッセージを発信している畑村氏に、日本の技術開発の現状と行方、そして、日本の技術者が未来に向かって活路を開くためにはどうすればよいのか、といったお話を伺った。全4回の連載で紹介する。


第1回目のテーマは「日本における技術開発の現状」について。
「世界に誇れる日本の技術力」というイメージは広く浸透している。失敗学を通じて、国内や世界のものづくりを見続けてきた畑村氏に「ものづくり大国日本」の現状はどのように映るのだろうか。

日本の技術力と世界との位置づけ

世の中が求めているものをビジネスに結びつけて、製品として形にするという点では、日本は1960年代から90年代までは非常にうまくいっていたと思います。しかし今日のビジネス体系では一度成功してしまったことによって、その成功体験から離れられなくなって、現状を打破することができないジレンマに陥っているようです。今の日本の場合、技術者や経営者はもちろんですが、国民全員が「自分がやらなくても誰かがやってくれる」といった他人に依存してしまう風潮があり、そこから逃れられなくなっているように感じられます。この風潮を変えていかないと、日本は世界から取り残されてしまうのではないかと思います。

戦後の復興期を経て、高度経済成長期から安定成長期に至るまで、日本はまさに技術力を武器に欧米諸国と肩を並べ、経済大国として発展してきた。そして技術開発が進歩していくにつれ、技術重視の売る側視線となり、市場を見誤る現象が起きていたかもしれない。それは具体的にはどのようなものでしょうか。

技術と市場との関係性について

高い技術力を使って様々な機能をつけていくのが、今までの日本製品の進化の特徴といえるでしょう。例えばテレビショッピングなどを見ていると、その製品がどれだけすごいのかを示すために、製品の機能を次々に司会者が紹介していきます。しかし残念なことにその機能の大半は、多くの消費者が実際には使うことがないであろう機能です。一時期の携帯電話やスマートフォンなどで顕著ですが、特にほしいとは思わない機能が、新機種が登場するたびに増えている、といったことがおきています。必要のない機能がついても、その分だけ価格が高くなるのであれば、消費者はあまりうれしくはないですよね。
このような過剰な機能搭載も、今まではあまり問題になりませんでした。それは日本国内のどこのメーカーでも同じようなことをしていたからです。しかし日本と違い、消費者の現実がよりシビアな海外ではこのような方法は通用しないでしょう。

企業や技術者が考えているほど、消費者は新しい機能を追い求めていません。それゆえに消費者が本当にほしいと思っている機能だけの製品が安く売られていたら、必要のない機能満載で高価な製品は売れなくなるでしょう。日本の技術者も消費者の本当のニーズを探りながら市場をふまえた「ものづくり」をしていく必要があります。

今後の課題は、消費者のリアルなニーズを把握したものづくり。
大企業なら、マーケティング部門が調査や情報分析を行い、企画や技術開発に反映させることができる。しかし、中小企業はそうした部門のサポートなしに、技術者自らが社会の潜在的なニーズを探り当てていかねばならないのではないだろうか。

中小企業がこれからすべきこと

私は企業の講座や勉強会で話す機会が多いのですが、この国の様々な企業へ足を運んでみると、多くの企業が自社の特徴を生かそうと懸命に努力している様子が伝わってきます。しかし、もう一方では、自社の特徴やセールスポイントが何なのかに気づいていない企業もまだまだ多いように感じます。
こうした企業ならではの強みを、私達は「秘伝のタレ」と名付けています。「秘伝のタレ」を一言でいえば「他社が簡単には真似することができない自社の強みとなる技術」です。そして、ニーズがあることが必須条件になります。

「秘伝のタレ」となる技術を持っているのは、大手よりも中小企業の方が多いのではないか、というのが私の感触です。それは取引先から次々と依頼される新たな要望に応えるため、厳しい条件で試行錯誤するうちに、技術がいっそう磨かれ、進化を遂げるからです。このように鍛えられた自社の強みをうまく活かすことで、中小企業がもっと飛躍する機会があるはずです。まずは自社の「秘伝のタレ」が何なのかを見極めることが大事なのです。

<連載第1回・完>

 

連載

第一回 技術開発において、日本はかつての成功体験から離れられなくなっている

第二回 技術者は「失敗が起こるのは当たり前だ」と思いながら、技術開発に臨んだほうがよい

第三回 「新しい価値」に着目し、潜在化している価値を具現化することで利益が生まれてくる

第四回 技術者にとって大切なのは、自分で考えてみること。外の世界ともっとつながりをもつこと


畑村 洋太郎(はたむら・ようたろう)

1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科卒業、同大学院修士課程修了。日立製作所勤務を経て東京大学教授。2001年に退官。東京大学名誉教授。専門は失敗学、危険学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。2002年にNPO法人「失敗学会」、2007年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。2011年6月より東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員長会委員長などを務める。著者は多数あり、2000年に出版された『失敗学のすすめ』は、現在までに発行部数40万部を誇る。近著に『技術の街道をゆく』など

<主な著書>
『失敗学のすすめ』(講談社)2000年11月刊
『技術の創造と設計』(岩波書店)2006年11月刊
『未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ』(講談社)2011年7月刊
『技術大国幻想の終わり-これが日本の生きる道-』(講談社)2015年6月刊
『技術の街道をゆく』 (岩波新書)2018年1月刊

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