BREAKTHROUGH発想を学ぶ

医療の質の向上に資する手術支援ロボット杉田 直彦<連載第3回(全3回)>

2018.04.12

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発展途上にある手術支援ロボット

手術支援ロボットは、闇雲に作っても決して利益が上がるようにはなりません。というのも、医師が使用してくれないと始まらないからです。当たり前のことかもしれませんが、手術支援ロボットの開発において大切なことは、「メリットがデメリットを上回っている」こと。セットアップの労力や初期投資、トレーニング時間、術具の種類の少なさなど、手術支援ロボットに横たわる欠点を補って余りある利点がなければ医師には使ってもらえません。

結局のところ、医師より優れた治療ができなければ、手術支援ロボットの普及は望めないでしょう。そこで製造業がチャレンジしているのが「低侵襲化」。「低侵襲化」には、「傷の数を減らす」「傷の大きさを小さくする」「傷の場所を見えないところにする」という3つのアプローチがあります。医師が手術を行うよりも傷の数を減らせれば、患者は早期回復など、さまざまなメリットが期待できます。

人工膝関節を手術するためのロボットは、医者が傷んだ軟骨を削る作業を支援しています。この作業は思いのほか難しく、本来削ってはいけない箇所に手を入れてしまうことも。しかし、シングル旋盤やマシニングセンターの工程を集約し、旋盤加工、ミーリング加工、特殊加工、同時5軸加工、6面加工などの複合加工を可能としたこのロボットにより、正確かつキレイに削れるようになっています。

人工関節に工作機械技術を応用

「患者さんによりよい医療を提供したい」。このような想いで、人工関節の研究を進めてきました。第1回で述べたように、現在の人工関節は、必ずしも患者それぞれに合った形で設計されていません。人工関節の設計思想自体を転換する段階に来ているのではないでしょうか。一般の病院でも人工関節を用いた手術が可能なこともあって、人工関節の売上高は右肩上がりで増加しています。しかし、人工関節市場は外資系メーカーの勢いが強く、日系メーカーが食い込めていない残念な状況にあります。超高齢社会が進展する今こそ、日本人の骨格に合わせた人工関節を作っていくことで、シェアを伸ばしていくべきです。

今後も研究室では、生産加工や工作機械技術を生かした生体材料を削るデバイスの開発に注力し、医療分野への貢献をさらに果たしていきます。第1回で触れたように、筋骨格モデルから歩行機能を担保した人工関節を提供できるよう努力します。さらに、カスタムメイドの医療システムにも取り組みます。

上記の図のように工学系の知見から手術を見ると、「術前計画ソフト」「受注ソフト」「設計方法および加工方法」「手術器具」という4つが機能して行われていることがわかります。工学ではCAD/CAMに該当するCTデータから取得したデータから、どのような人工関節を設計していくべきかを考えています。近年は、既存のものに軽微な修正を加えただけでも十分勝負できることがわかってきました。しかしながら、医療機器市場の攻略は一筋縄ではいかないものです。第2回で解説した通り、手術支援ロボットはキラーアプリがなければ、ヒットしない厳しい世界です。ヒットしたのは日本国内で200台以上、世界で3,000台以上販売された「ダヴィンチ」くらいです。

今後、超高齢社会が一層進展し、医療への感心はますます高まっていくでしょう。「ダヴィンチ」のように、キラーアプリを持った「医師より優れた治療ができるロボット」が登場すれば、医療の質は飛躍的に高まります。私たちは、「思考展開」を続け、機械工学を生かした良質な医療機器を開発できるよう、これからも研究を進めていきます。

<連載第3回・完>


杉田 直彦(すぎた・なおひこ)
東京大学大学院工学系研究科教授

1970年兵庫県姫路市生まれ.石川県金沢市育ち。1996年に東京大学大学院工学研究科産業機械工学専攻修士課程修了し、日本電気株式会社に入社、マイクロ波衛星通信事業部所属。2003年に東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助手となり、2007年に准教授、2014年に教授に就任、現在に至る。専門分野は、生産工学・医用加工・計測学。研究分野は生産加工(切削加工、レーザ加工、レーザ援用)、工作機械(CFRP構造体)、医療応用(人工関節、骨切除デバイス、手術支援システム)など。

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