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デザイン力が企業競争力を左右する赤池 学<連載第1回(全4回)>

発想を学ぶ

2018.02.19

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本質的な「デザイン」とは何か?

デザインは、ともすれば意匠レベルのクリエイティブだと思われがちです。しかし、決してそうではなりません。本質的なデザインとは、こうした単純な話ではなく、「想定した目的を達成するための総括的なもの」です。オーストリア出身のアメリカのデザイナー・教育者であったヴィクター・パパネックは、『生きのびるためのデザイン』(1974年刊)を著し、当時の大量生産・大量消費社会のあり方を痛烈に批判しました。この書籍において、デザインとは「ある行為を望ましい予知できる目標へ向けて計画し、整えることがデザインの本質である。デザインを孤立化して考えることあるいはもの自体と見ることは生の根源的な母体としてのデザインの本質的な価値を見失うことである」とヴィクター・パパネックは書いています。

私は、彼の授業をアメリカで受けたことがあります。「ビジネスそのものがデザインである」という考え方にとても衝撃を受けました。最終製品ではなく、技術をどのようなアプリケーションで展開し、どのようにビジネスにつなげていくのか。このプロセス自体すべてがデザインであると考えれば、ビジネスそのものが変わってくるでしょう。

これまでの日本企業は、プロダクトアウトを中心にセールスを主体とした組織づくりをしてきました。消費者のニーズをつかんでいるマーケティングセクターやビジネスセンターがR&D部門に製品開発を依頼し、市場に製品を投入するケースが一般的であり、デザインセンターは、企業の一部門として広告やコミュニケーションのみを担うのが実態でした。しかし、デザインの本質的な価値に気づいた先進的な日本企業は、10年ほど前から、組織体制を刷新し、デザインセンターを中心としたビジネスを推進しています。

 

デザインセンターが果たす役割とは?

パナソニックや日立、日産自動車、LIXIL、サントリーなど、先進的なものづくりを行う日本企業では、営業や製造ではなく、デザインセンターが組織の上部に位置するようになりました。LIXILにおいては、ハウジング企画部が社内で大きな力を振るっていますし、サントリーでは、プロジェクトリーダーがデザインセンターからキャスティングされるようになっています。デザインセンターは、人事権さえも左右するほど、重要な存在になりつつあるのです。

それはいったいなぜでしょうか。前述したとおり、これまでのビジネスにおいては、ビジネスセンターが入手したマーケティング情報をもとに消費者を捉え、市場に製品を投入していました。モノが不足していた時代において、この方法は有効でしたが、モノで満たされた現在、生活者自身が「何がほしいのか」わからない状態になっており、この方法は通用しなくなっています。消費者がこれまで体験したことがないモノを提供していかなければならない時代に来ています。

先進的な日本企業は、どのようにしてデザイン力を高めているのでしょうか。従来は、カンパニーごとにデザイナーを置き、個別最適化を図っていました。それをデザイン本部が一元的に管理、集約することで、商品そのものは変わらないものの、ビジネスモデルを刷新する体制を整えています。というのも、個別領域でやっていては、じり貧であることに気づいたからです。戦略的にデザイン思考を共有し、組織の力を高めることで、さまざまな成功例が出ています。例えば、これまで培った技術を家電だけではなく、美容に生かしたケースなどが好例でしょう。さらに一歩進んだケースでは、エンジニアにアーティストを引き合わせて開発を進める事例も出ています。組織内部だけではなく、外部と戦略的なパートナーシップを締結する動きも見られるようになってきました。これまで、デザイナーといえば、美術大学などで専門的な教育を受けた人材が中心でした。しかし、デザイン思考の本質的な価値に気づいた日本企業は、デザイナーだけでなく、工学系をはじめ、多様な人材をデザイナーセンターに集め、戦略的な協業を図っています。

<連載第1回・完>


赤池 学(あかいけ・まなぶ)
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長
経済産業省産業構造審議会研究開発小委員会委員
文部科学省革新技術審査委員会審査委員
農林水産省バイオマス・ニッポン総合戦略推進委員
武蔵野美術大学デザイン情報学科講師
早稲田大学環境総合研究センター客員教員
北九州市環境首都リサーチセンター主任研究員
日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査委員
キッズデザイン協議会キッズデザイン賞審査委員長

1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

◇主な著書
『生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術』(NHK出版)2014年7月刊
『自然に学ぶものづくり図鑑』(PHP研究所/赤池学監修)2011年1月刊
『昆虫がヒトを救う』(宝島社新書)2007年10月刊
『昆虫力』(小学館)2006年7月刊
『自然に学ぶものづくり』(東洋経済新報社)2005年12月刊
『ニッポン テクノロジー』(丸善)2005年6月刊
『新 製造業サバイバル論』(ウエッジ)2005年3月刊
『トヨタを知るということ』(日経ビジネス人文庫)2004年11月刊

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