BreakThrough 発想を学ぶ

自社の「強み」を見直すこと、掛け合わせることで価値を創出長島 聡(ローランドベルガー日本法人代表取締役社長 ※現グローバルイノベーションオフィサー)

<連載第3回>(全4回)

2020.04.16

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長島 聡(ローランドベルガー日本法人代表取締役社長 ※現グローバルイノベーションオフィサー)


自社の製品・サービスの価値を高めることで生産性を上げる“創造生産性”の向上に取り組む上で、企業連携は有望な手段の一つです。これらを実現するため、中小企業はどのような取り組みを行うべきでしょうか。世界的コンサルティング企業のローランドベルガー日本法人代表取締役社長(※現グローバルイノベーションオフィサー)を務める長島聡氏に、自身が推進する日本型オープンイノベーションの取り組みについて伺いながら、個別企業の具体例なども紹介していきます。


日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」でイノベーションを創出

日本の中小企業が持っている「強み」を掛け合わせれば、新たな価値をよりスピーディーに生み出せる——。そんな考えを持つ長島氏がローランド・ベルガーで始めたのが「和ノベーション」。日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」という三つの「わ」を力に“創造生産性”を高め、新価値の創出を目指す日本型オープンイノベーションです。

「“和”は日本企業各社が持っている技術、ノウハウ、知恵などといった暗黙知を見える化し、組み合わせること。各社の『ありもの』の活用だからこそ、各社各様の深いこだわりを活かすことができます。その上で部門・企業・業界を超えた対“話”を行い、志を共有する仲間の“輪”を拡げていくことで価値を高めます」

各社の「ありもの」の組み合わせで、小型EVをスピード開発

和ノベーションの参画企業10社※が協力し、実質わずか4カ月で開発したのが、時速10km程度で走り、遠隔操縦も可能な2人乗りの小型EV「バトラー(執事)カー」です。東京モーターショー2019で大きな注目を集めたこの小型EVは、観光地や駅までの距離が遠いニュータウン、坂道が多い山間地など多彩なシーンでの活躍が期待されています。

「開発では、私が『格式の高いホテルや式場、神社仏閣などで、VIPを丁重に案内する“移動空間”』と構想を語ると、デザイン等を手掛ける参画企業『株式会社GK京都』がスケッチに起こして構想をビジュアル化しました。この1枚のスケッチからプロジェクトが一気に動き始めたのです。その後も各社の『ありもの』を組み合わせる形で、スピーディに作業が進みました」
※バトラーカープロジェクト参画企業…株式会社コアコンセプト・テクノロジー、株式会社GK京都、新明工業株式会社、株式会社浜野製作所、原田車両設計株式会社、二葉工業株式会社、ベッコフオートメーション株式会社、株式会社マリスcreative design、MIRAI-LABO株式会社、株式会社ラック

「和ノベーション」参画企業10社が協力・開発した小型EV「バトラーカー」

自社の「ありもの」を見直し、危機を脱出

一方、個別企業での創造生産性向上の実例として、長島氏がまず例に挙げたのが、従業員約40名人のメーカー「株式会社由紀精密」です。1950年の創業以来、電気電子ネジなどを量産していた同社は、リーマンショック後に深刻な受注減に陥りましたが、直後に家業を引き継いだ現代表が開発部の立ち上げと、強みの再定義を行い、100社以上もの新規取引先を開拓しました。

「同社は、取引先へのアンケート調査で精密加工の品質・信頼性が一番の強みだと確信。航空宇宙関連機器・医療機器分野へ参入し、成功を収めました。その後持ち株会社を設立しM&Aなどで事業を拡大させるとともに、『和ノベーション』への参画などを通して日本を元気にする活動に力を貸してくれています」

もう一つの企業の例が、従業員約30名の金網専門メーカー「石川金網株式会社」です。同社もリーマンショック後の受注減に際し、自社の技術である金網の新たな用途を探るなかで、布のようなしなやかな金網でできた折り紙の『おりあみ』を開発。折り紙アーティストや日本折紙協会の指導・監修も受け、約3年を費やして完成させたこの製品は、海外見本市などでも注目を集め、コサージュやアクセサリーなどにも活用されていると言います。今では、業界で知られるようになり、異業種コラボレーションなどの話が多く舞い込んでくるそうです。

「おりあみ」を使用して制作された折り紙作家の前川淳氏による作品「悪魔」

次回最終回は、創造生産性を向上させる企業になるためのポイントについて長島氏に伺っていきます。


連載 “創造生産性”発揮に向け、自社の殻を破り、自信をもって表舞台へ

第一回 “創造生産性”の向上で、中小企業も付加価値アップを目指せ
第二回 企業の“創造生産性”は、自社を知り、人と会うことで高められる
第三回 自社の「強み」を見直すこと、掛け合わせることで価値を創出
第四回 “創造生産性”発揮に向け、自社の殻を破り、自信をもって表舞台へ


長島 聡(ながしま・さとし)
(ローランドベルガー日本法人代表取締役社長 ※現グローバルイノベーションオフィサー)

早稲田大学理工学研究科博士課程修了。工学博士。早稲田大学理工学部助手などを経て、ドイツを拠点とする世界的な戦略コンサルティング企業、ローランド・ベルガーに参画。製造業のグランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装などのプロジェクトを手がける。経済産業省の「自動車新時代戦略会議」委員、中小企業庁の中小企業政策審議会専門委員なども歴任。

◇主な編著書
・『AI現場力「和ノベーション」で圧倒的に強くなる』(日本経済新聞出版社)2017年刊
・『日本型インダストリー4.0』(日本経済新聞出版社)2015年刊

取材日:2020年1月30日

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