BREAKTHROUGH発想を学ぶ

農業は無人化され、観光資源となる平藤 雅之<連載第3回(全4回)>

2018.05.10

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ビッグデータの取得が新たなビジネスチャンスを生む

農業研究者の数は、長期的に減っています。私が農水省に入省した約30年前、数千人いた国の農業研究者は、現在、1400人台にまで減っています。また、都道府県における農業研究者の数も同時に減っています。つまり、農業の研究においてさえも人を動員できない状況にあるということ。もはや、自動化しないと農業の先細りは避けられないでしょう。

現在私は、JST CRESTの研究プロジェクトでビッグデータを収集する基礎研究に携わっています。東大、農研機構、筑波大、NECソリューションイノベータが共同でフィールドサーバやドローン、6足歩行ロボットを使用して取得したデータを統合し、ビッグデータにして新知見の発見を目指しています。この基礎研究では、作物の植被率や草丈、成長速度、環境などの時系列データなどを取得して、雑種強勢の謎や共生微生物の謎の解明に挑んでいます。生育や病害抵抗性、香り、食味、鮮度などに影響がある共生微生物の謎が解明されれば、新たなビジネスチャンスが生まれるでしょう。しかし、生育のデータをきっちりと取得するだけでも実は難しいのです。植物や環境のデータは多数の地点で長期間、収取し続けなければなりません。作物の近くに背の高いフィールドサーバを設置すると、農薬散布や除草など機械作業の邪魔になってしまいます。ドローンで作物の苗をミリメーターの精度で撮影しようとすると、自然に吹いている風の他にドローンが飛行する際に吹き付ける風によっても苗が動いてしまうため、正確に測れなくなってしまいます。複数ドローンによる協調飛行が実現すれば、その問題も解消されるかもしれません。


フィールドサーバ、ドローン、6足歩行ロボットによるデータ収集実験のメンバー

近年は、6足歩行ロボットに顕微鏡カメラを取り付けることで、微小形質の測定が可能になってきました。人手でやっていた作物のサンプリングも自動化できます。画像からはディープラーニングなどの機械学習によって、作物の開花時刻や穂数までもがわかるようになりました。ロボットやAIはデータの自動取得を容易にしていますが、課題もあります。それは、AIに「これがイネですよ」、「これが穂ですよ」とひとつひとつ教えなければいけないことと、そのための真値データを人の手によって測定しなければならないこと。真値データを取るためには、膨大なサンプルが必要なので、気の遠くなるほどの労力がかかります。

データが示す次世代農業の形とは?

そこで、チャレンジしているのが「真値データを生産する農場」。センサーやカメラ、画像処理などを活用してデータを量産するための圃場である“データファーム”を北海道の更別村に作り、真値データの取得を自動化する取り組みです。近年、十勝では最大誤差3cmの精度で測位ができるRTK-GPSを使った自律走行型農業機械を用いた大規模経営が普及するなど、ITスキルが高い方が多く、農学の修士号や博士号を取った農業者が増えています。更別村には、実験圃場の管理、ドローンの操縦、データの管理までを全部できる農家の方がおり、圃場の構築や農作業、ドローン撮影、メンテナンス、データ管理などをすべて発注しました。こういった農家が今後増えると、作物の生産だけではなく機械学習や研究開発に必要となるビッグデータを生産することも可能になります。更別村の“データファーム”ではデータを生産し、フィールドサーバとドローンでデータを収穫する体制を構築しました。収穫したデータは、品種改良や農薬開発、栽培技術開発などに役立つでしょう。すでに農薬メーカーなどからオファーが来ています。

今後、農業は無人化されていくでしょう。スタートレックの世界観では、農業は趣味(ホビー)でしたが、その通りになります。そうなれば、最先端の農業は、インバウンド狙いのサイエンスドリームを提供する巨大な観光資源にもなります。実際、アメリカのディズニー・ワールドのひとつである「エプコット」では、未来の農業をテーマとしたアトラクションが人気になっています。農業は、初期投資は大きいですが、観光資源としても活用できるとなれば、今後投資機運が高まっていくのではないでしょうか。

次回は、世界を変え得る農業の可能性について解説します。

<連載第3回・完>


平藤 雅之(ひらふじ・まさゆき)
東京大学大学院
農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 国際フィールドフェノミクス研究拠点
特任教授 ドリームサイエンスホールディングス株式会社・CEO

1983年東京大学生命科学研究科修了。農林水産省・農業研究センター(現在の農研機構)主任研究官、農林水産技術会議事務局研究調査官、農研機構研究領域長などを経て、現在に至る。計算生物学、生物・生態系のモデリングと計測制御、IT・複雑系・人工生態系技術を用いた宇宙農場・快適な生活空間の研究等が専門。

◇主な著書
『バイオエキスパートシステムズ - 生物生産におけるAI/ニューロコンピューティング -』(コロナ社)1990年4月刊

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