BREAKTHROUGH発想を学ぶ

鳥取大学医学部付属病院をオープンイノベーションの場へ植木 賢<連載第2回(全4回)>

2018.03.13

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「地域に足りないことは何でもやる」地域とともに歩む覚悟

進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは「最も強い者が生き残るのではない。唯一生き残るのは、変化できる者である」と言いましたが、企業や組織も同じでしょう。情報化がより一層進展する現代では、業種を超えた“異種格闘技戦”が展開され、対応できない者は敗北を余儀なくされています。実際、100年続く老舗と言われている企業は、コア技術は変わらないものの、時代の変化に応じて上手に技術を転用し、生き残っています。

2007年に国土交通省が発表した推計によると、鳥取県の2050年の人口は約39万人にまで減少すると見込まれています。関係の深い隣県の島根県は約50万人に落ち込むので、両県を合計しても人口は100万人に及びません。この状況を放置しておけば、地域はより一層衰退してしまう。そんな状況を目の当たりにして、「地域に足りないことがあるなら何でもやろう」と決意しました。

そこで、企業に病院をオープンイノベーションの現場として活用してもらう試みを始めました。この取り組みから、医療機器が製品化され、地域に雇用が少しでも生まれたら素晴らしいな、そんな想いがありました。医療機器に着目したのは、中小企業が得意とする切削などの技術がダイレクトに活かせるからです。また、医療機器は医薬品と異なり、開発費を低廉に抑えることができるのもメリットでした。

日本国内における医療機器は約30万品目にも及び、市場規模は約2兆円。一方の医薬品は、市場規模が約8兆円と巨大ですが、品目は約1万7,000品目に過ぎず、開発費は億単位にもなるため、大手製薬メーカーが主なプレイヤーとなっています。中小企業が医薬品市場で戦っても、分が悪いのは明らかでしょう。中小企業にとっては医療機器市場にこそ、ビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。

診療科の垣根を超えた連携がイノベーションを促進

とはいえ、せっかくの取り組みもかけ声倒れになっては意味がありません。鳥取大学医学部付属病院では、医療現場の見学会と招聘講師を交えた「共学講座」を2014年から開催し、医療現場発のものづくりをサポートしています。

最初はぎこちなかった鳥取大学医学部付属病院の職員たちも毎月のように中小企業の方々とお会いするなかで、次第に気心の知れた仲になるようになりました。看護部では「ものづくりワーキング」が立ち上げられ、看護部発の医療機器が開発されました。それが、医療現場のタグ取り付け器「たぐりん。」。スイカ受粉用の器具を医療機器に転用したもので、インシデントやヒヤリハットの防止のほか、点滴ルートの正誤確認などに役立っています。開発したのは、ものづくりに関わるソフトウェアやハードウェアを提供する企業。医療機器の開発によって、新たな事業領域が生まれたのです。

私たちが目指しているのは、人工心臓弁の開発のような大きなイノベーションではなく、いわば「イノベーション1.1」。すでにある技術を組み合わせることで、これまでになかった新しい価値を生み出していくことです。一つひとつのアイデアを丁寧かつ大切に育て、小さな成功体験を積み重ねていく。大きなことはできないかもしれませんが、新しいものが生まれる現場に立ち会えることの喜びは格別です。

さまざまな取り組みを行うなかで、診療科の垣根を越えた連携は急速に進んでいます。当院には39の診療科がありますが、能動的にアイデアを出す雰囲気が醸成されています。第1回のコラムで触れた通り、当院はこれまで11製品の開発を手がけ、現在はさらに取り組み増え続けています。関係している診療科も形成外科、消化器内科、循環器内科、口腔外科など、多岐にわたっているのです。

次回は、私が実際に企業とともに手がけた医療機器の開発事例についてお話します。

<連載第2回・完>


植木 賢(うえき・まさる)
鳥取大学医学部付属病院 新規医療研究推進センター 研究実用化支援部門長 教授
医学博士
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本内科学認定医
日本肝臓学会専門医
日本消化器病学会専門医

1972 年 鳥取県生まれ。平成10年大分医科大学医学部医学科卒業、平成17年鳥取大学大学院医学系研究科修了。平成21年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター講師、平成24年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター特命准教授、平成24年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター特命准教授、平成26年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター(現新規医療研究推進センター)教授、現在に至る。

◇主な著書
『肝疾患診療のコツと落とし穴』(中山書店/植木賢共著)2015年1月刊

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