BREAKTHROUGH発想を学ぶ

「新しい価値」に着目し、潜在化している価値を具現化することで利益が生まれてくる畑村 洋太郎<連載第3回(全4回)>

2018.11.01

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「日本における技術開発の現状」、そして「日本の技術者にとって必要なのは何か」について前出の2回にわたって畑村氏にお話を伺った。そして第3回のテーマはいよいよ「ものづくりと価値」について。畑村氏が考える新価値とはどのようなものなのか。


新しい価値を生み出すことはどういうことか

「新しい価値」とは、社会が持っている潜在価値の具現化であって、世の中の願望のことを言っているのかもしれません。端的に言えば、願望を明らかにして具現化する。製品として世に問う。広く提供することでしょうか。
私は「価値」というと、あるエピソードを思い出します。日本の企業とも取引があるインドの現地メーカーを2012年に訪問した際、そこの社長にこのように言われたのです。「日本の企業が、『決まっている構造をどう実現するかを考えること』が上手なのは私たちも認めています。しかし、現地に住んでいる人々が大事にしている文化や風習のことはあまり考えようとはしません。その原因を推測すると、日本の企業は、『価値』についてあまり議論してこなかったからではないでしょうか」と。私はこの言葉を聞いて「なるほどなあ」と思いました。日本企業が世界各国の企業を相手に苦戦を強いられているとしたら、この「価値」について深く考えていない点があったからではないかと。

ものづくりをする企業にとっての新しい価値の創造とは、新しい技術開発によって生み出されるものと思いがちだ。しかし畑村氏がインドを訪れた際に気づいた新たな「価値」とは、日本企業が海外で製品を市場展開する際の、その国の文化や風習に合わせたローカリゼーション戦略と結びつくようだ。

ものづくりと価値、世界での事例について

世界での事例を話す際に、興味深い一枚の写真があります。これはベトナムの首都ハノイで撮られたものですが、一台のオートバイに父親と母親、そして2人の子供の計4人が、まるで曲芸のような感じで乗り合わせています。個人の移動手段がオートバイであるため、ベトナムではこういった風景もごくあたり前のようです。

一家4人で相乗りしたオートバイ、ベトナムのハノイ市内にて
(出典:『技術の街道をゆく』岩波新書)

この一枚の写真から様々なことをくみ取ることができます。まずベトナムではオートバイが移動手段に欠かせないこと。さらにベトナムの経済状態があまり豊かでないこと。そしてこういった事情を背景に、ホンダは現在、ベトナムでのオートバイのシェア率で7割を占めるようになりました。
ホンダは当初、中国製のオートバイとシェア争いをしていました。しかし2000年頃になるとホンダ製のイミテーションである、中国産のオートバイが大量にベトナムに入りこみ、市場を独占するかの勢いで追い上げてきました。このためホンダのオートバイはすっかり激減してまったのです。

そこで、ホンダは一計を案じたのですが、その打開策は大変ユニークなものでした。中国製のイミテーションのバイクは、品質が悪いためすぐ壊れてしまい、修理が必要となります。ホンダはここに目をつけました。中国製バイクと真っ向勝負するのではなく、中国製バイクの壊れたパーツをホンダの純正部品に徐々に取り換えを促すことで、市場の奪還を試みたのです。この「純正部品のバラ売り」による打開策が功を奏して、日本製品の壊れにくさが知れ渡り、低価格帯製品の販売も開始することで、2014年には市場が逆転。シェア7割を占めることができました。

ベトナム市場におけるホンダ製オートバイと中国製オートバイのシェアの推移
(出典:『技術の街道をゆく』岩波新書)

ここで重要になるのは単に市場を取り戻しただけではないことです。ホンダは、「純正部品のバラ売り」という、いわば新しいカタチの分割販売で、ベトナムの人たちの潜在的なニーズに応えることができました。そしてオートバイ販売における「新しい価値」を創造することができたのです。これは日本の企業のこれからの大きな指標となるのではないでしょうか。

「新しい価値」とは単に新しい技術を開発することではなく、製品や技術・サービスを、現地の消費者のニーズや状況に合わせてカスタマイズすることにもあるようだ。では、ものづくりは今後どうなっていくのだろう。

ものづくりはどのように変化していく必要があるか

これからの世の中では、先ほどお話したように「新しい価値」に着目して、潜在化している価値を具現化することで利益が生まれてくるはずです。この先、いかにこの国の経済状態が変化しても、日本が外国の人にものを買ってもらい利益を生み出さなければいきてゆけないことに変わりはないでしょう。しかし、今や「良いもの」だけでは大きな価値を生み出せなくなり、利益を生まなくなったのです。ものづくりの工程にも大きな変化が求められています。

近著『技術の街道をゆく』でも紹介した概念図があります。これは製品の構想・企画を立て、開発・設計をして、生産、そして販売・営業までの工程を「利益への貢献度」から見たものです。かつては利益を生むのが、表の右側の方、「バック・ローティング」でした。ですから日本は、時間軸で言うと後ろの工程を大事にする文化が根づいて、だれも疑うことなく、それが当たり前となっていました。
しかし、現在は「フロント・ローディング」という考え方で、製品の構想・企画、つまり工程の前半に重点が移っています。

今の時代、ものづくりや販売・サービス方法の改善にいくらこだわってみても、今以上の利益は生まれてこないと思われます。そのことをまず認めながら、本当に現状を打破したいのなら「フロント・ローディング」に移行すべきでしょう。世の中で何が求められているか、何が新しい価値となるのかを第一に考え、ものづくりを行うことが、利益を生み出すためにますます重要になってくるはずです。

利益の源泉は、構想・企画に移行している
(出典:『技術の街道をゆく』岩波新書)

<連載第3回・完>

 

連載

第一回 技術開発において、日本はかつての成功体験から離れられなくなっている

第二回 技術者は「失敗が起こるのは当たり前だ」と思いながら、技術開発に臨んだほうがよい

第三回 「新しい価値」に着目し、潜在化している価値を具現化することで利益が生まれてくる

第四回 技術者にとって大切なのは、自分で考えてみること。外の世界ともっとつながりをもつこと


畑村 洋太郎(はたむら・ようたろう)

1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科卒業、同大学院修士課程修了。日立製作所勤務を経て東京大学教授。2001年に退官。東京大学名誉教授。専門は失敗学、危険学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。2002年にNPO法人「失敗学会」、2007年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。2011年6月より東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員長会委員長などを務める。著者は多数あり、2000年に出版された『失敗学のすすめ』は、現在までに発行部数40万部を誇る。近著に『技術の街道をゆく』など

<主な著書>
『失敗学のすすめ』(講談社)2000年11月刊
『技術の創造と設計』(岩波書店)2006年11月刊
『未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ』(講談社)2011年7月刊
『技術大国幻想の終わり-これが日本の生きる道-』(講談社)2015年6月刊
『技術の街道をゆく』 (岩波新書)2018年1月刊

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