BREAKTHROUGH発想を学ぶ

鳥取大学が行うイノベーション教育と日本の未来植木 賢<連載第4回(全4回)>

2018.03.15

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教科書に載っていないことを見つけ、仮説検証を行う人材を育成

これからの世界は、「“個”を超えていく」ことが重要になってくると私は考えています。「病院だけがよければいい」「米子だけがよければいい」「企業だけがよければいい」といった“個”を主体とした考え方は捨てて、空間軸と時間軸を広く取り、社会を包摂した形で一緒になって生きていくことが必要ではないでしょうか。もしかしたら、ユートピア的な発想だと思われる方もいるかもしれませんが、私は本気でそう信じています。

弁理士の先生と出会ってから(※詳細は連載第3回参照)というもの、自分のなかのタガが外れたのか(笑)、書籍の著者に手紙を出して、よく会いにいくようになりました。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏から返信がきたときは、うれしさのあまり震えましたね。なかでも、寒天のトップメーカーとして有名な伊那食品工業株式会社の塚越 寛会長との出会いは衝撃的なものでした。塚越会長は、会長室に飾られていた大きなカレンダーを指さしながら、「ここには僕の命日も君の命日もある。私はこの会社を48年経営してきたが、今後が楽しみだ」とおっしゃったのです。塚越会長は、自分のいない社会や未来にまで思いを馳せている。それに比べ自分はなんてちっぽけな存在なんだろうと。また、「私に恩を返すのではなく社会に返しなさい」とも言われ、この言葉が私を突き動かす原動力になったのです。

思い返してみれば、私が理数系科目を好きになったのは小学校の理科の先生のおかげ。教育が人生の転機となり、人を形作っていくのです。とはいえ、辞書や教科書に書いてあることはすでにわかっていること。これからの社会は、辞書や教科書に載っていないことを見つけて、仮説を立てて検証を行うことが求められています。その一助となるのがイノベーション教育です。

小学校や高校にも広がる「発明楽」を起点としたイノベーション教育

鳥取大学医学部付属病院では、新しいものを作る喜びと発明に興味をもってもらうことを目的に「発明楽」を主体とした授業を行っています。これまでに鳥取大学のほか、小学校や高校などで延べ1,000人以上の学生が「発明楽」に触れています。「発明楽」とは、発明を生み出す4つの発想スキルのこと。例えば、拡大内視鏡は、「内視鏡」に「顕微鏡」が付加されたことで、また経鼻内視鏡は、「内視鏡」の太さを半減したことで生まれています。「発明楽」は、2013年に文科省の「地方大学の特色あるプログラム100選」に選ばれ、同6月には教材用の絵本も作製。現在は、英語や中国語、ロシア語に翻訳した絵本が作製されており、累計の印刷部数は約3,000部に達しています。

また、イノベーション教育をさらに推進するため、鳥取大学医学部の大学院に「革新的未来医療創造コース」を設置。人に言われたからやるのではなく、内発的動機のもと、明確な目的を持って行動する学生を育てています。そして、学生を企業との連携の場に積極的に連れ出し、先入観や既成概念にとらわれない考え方を身に付けるよう指導しています。近年は、学生による取り組みが目立ちます。気管挿管や内視鏡検査、喀痰吸引の3つの手技のトレーニングが一体で可能な医療用教育シュミレータロボット「mikoto(右下写真)」がその事例のひとつです。

ボーダレス化が進展し、社会は急速に変わっていきます。もはや「国がなんとかしてくれる」「病院がなんとかしてくれる」と他力本願でいられる時代ではありません。果たして私には何ができるのでしょうか。わかっていることは、自分の強みを活かして行動することで、道は開けていくという事実です。新しい医療機器の開発とイノベーション教育を通した鳥取大学医学部付属病院の取り組みが、世界を変える一助となれば幸いです。

<連載第4回・完>


植木 賢(うえき・まさる)
鳥取大学医学部付属病院 新規医療研究推進センター 研究実用化支援部門長 教授
医学博士
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本内科学認定医
日本肝臓学会専門医
日本消化器病学会専門医

1972 年 鳥取県生まれ。平成10年大分医科大学医学部医学科卒業、平成17年鳥取大学大学院医学系研究科修了。平成21年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター講師、平成24年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター特命准教授、平成24年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター特命准教授、平成26年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター(現新規医療研究推進センター)教授、現在に至る。

◇主な著書
『肝疾患診療のコツと落とし穴』(中山書店/植木賢共著)2015年1月刊

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