BREAKTHROUGH発想を学ぶ

機械工学が医療に革新をもたらす杉田 直彦<連載第1回(全3回)>

2018.04.10

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筋骨格モデルを使用した人工関節を開発

私の研究室では、切削加工レーザ加工などの生産加工やCFRP構造体を中心とした工作機械のほか、機械工学を駆使した人工関節や骨切除デバイス、手術支援システムの研究を行っています。連携企業は中小企業が中心ですが、大企業とも社会連携講座という形で協業しています。近年取り組んでいるのが、インプラントで使用される補綴(ほてつ)物の加工。歯科において保険適用される部分が拡大したことで、ジルコニアのセラミックスをいかにしてうまく削るかが問われるようになってきました。

カスタムメイドの人工関節の研究も行っています。最初、医療とものづくりは「結びつかないのでは」と考えていましたが、研究を始めてみると、思いのほか接点が多いことに気づかされました。例えば、体内で使うネジである棒スクリューや軟骨材料には、機械工学の知恵が存分に生かされています。

人間は年を取ると、一般的に股関節または膝関節から痛み始めていくことが多い。今後、超高齢社会が進展するにあたり、人工関節の需要は拡大していくでしょう。しかし、現在の人工関節は、サイズが決まっているなど、認可および上市には高い壁があります。機械工学の知恵を駆使して、そうしたハードルをクリアすべく研究しています。現在の人工関節は残念ながら、患者個々人に合うように設計されていません。ここに、人工関節の課題があります。そこで、私たちは、筋骨格モデルを用い、患者それぞれに適合し、かつ歩行機能を担保するための人工関節はどのようなものか、研究を進めています。

がん治療を劇的に変えた手術支援ロボット

手術支援ロボットは、どのようなケースで利用価値があるでしょうか。それは、医師の手ではできないことをロボットが代替して行う場合です。例えば脳神経外科では、1ミリ以下の血管を縫う「微細手術」が行われていますが、これだけ細かい作業になるとロボットにやらせたほうが、効率が上がります。

手術支援ロボットの代表格といえば「ダヴィンチ」でしょう。「ダヴィンチ」はなぜヒットしたのでしょうか。それは、「ダヴィンチ」が前立腺がん全摘手術に最適であり、それが医師に対してのキラーアプリとなっていたからです。今や前立腺がん全摘手術の80%(2004年)は「ダヴィンチ」によって行われています。2000年の段階では、ほとんど事例がなかったことから、約4年という短い期間で急速に普及したことがわかります。このように、手術支援ロボットは、医者ができない領域のことができるようになると、ニーズとシーズがマッチして革新的な変化が起こるとわかります。集束超音波システムもそうです。これは、人体にメスを入れなくても、超音波を集束させたエネルギーによって、がん細胞を焼き殺すことができる便利なもの。臓器の動きをトラッキングしながら、ピンポイントでがん細胞を狙い撃ちします。

機械工学の主戦場である製造業を取り巻く状況は激変しています。自動車はEV化が進展し、持続可能な社会が問われ、社会や生活スタイルが多様化しています。このような社会環境で、機械工学は、これからも製造業に必要な存在になっていけるのでしょうか。その解は、生産システムと発想法にあると私は考えています。

次回は、東京大学の授業で実践している発想法である「思考展開」について解説します。

<連載第1回・完>


杉田 直彦(すぎた・なおひこ)
東京大学大学院工学系研究科教授

1970年兵庫県姫路市生まれ.石川県金沢市育ち。1996年に東京大学大学院工学研究科産業機械工学専攻修士課程修了し、日本電気株式会社に入社、マイクロ波衛星通信事業部所属。2003年に東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助手となり、2007年に准教授、2014年に教授に就任、現在に至る。専門分野は、生産工学・医用加工・計測学。研究分野は生産加工(切削加工、レーザ加工、レーザ援用)、工作機械(CFRP構造体)、医療応用(人工関節、骨切除デバイス、手術支援システム)など。

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