BREAKTHROUGH連載インタビュー

新価値を創った企業から読み解く「チーム性」田中 芳夫 <連載第3回(全4回)>

2017.09.21

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新価値を作った企業から読み解く「チーム性」

かつては一つの特化した技術で仕事が生まれていましたが、それだけでは競争に勝つことが難しい時代になってきました。あらゆる業界で垣根を超えたチームの重要性は増してきています。

イノベーションというと、アップルの故スティーブ・ジョブズ共同設立者・元CEO(最高経営責任者)を思い浮かべる方が少なくないでしょう。「第2のジョブズを生み出すには」などという言葉を聞く機会も少なくありません。そんな彼も全部を一人で考えていたわけではありません。

ミーティングの場では、彼がまずチームに発想を伝える。
伝え終わったら「みんな自分がやるべきことがわかったな?」と言って、色々と形にしていくのが彼のやり方でした。

テクノロジーの仕組みも全てわかっているわけではありませんでした。例えば非常に精巧なディスプレイを見たときに仕組みは理解してなくとも可能性を見出してアイディアに取り込む。彼はまさにアイディアを活かす指揮者でした。

しかし、彼のスタイルを目指すのは現実的ではありません。
自分で会社を作って、会社の規模を数兆円まで伸ばした経営者は、世の中に数人しかいません。その数人の中に入るように目指しましょうと言っても非常に難しい目標だと思います。

ただチームでジョブズになることは可能だと思います。
そこで必要になってくるのは、問題解決の答えを一人で考えないということです。複数の企業が手を合わせて設計を作り上げて、その上で、部品や基幹コンポーネントなどでも関わるのです。

例えばIBMは、パソコンのすべてを自社だけで手がける力がありましたが、全体の設計(アーキテクチャー)やシステム構成などは自社で手がけるものの、CPU(中央演算装置)は米インテルに、OS(基本ソフトウエア)は米マイクロソフトに委ねる決定をしました。開発期間の短縮を目指しインテルやマイクロソフトと共に「IBM PC」を世に出したのです 。

インテルとマイクロソフトが巧みだったのは、「下請け」にならなかったことです。出資を仰いだり、共同開発を重ねたりしながら、両社ともパソコンメーカー各社の製品の設計や仕様を左右する存在になっていきます。その結果、インテルとマイクロソフトは世界で冠とする大企業に成長しIT業界をリードしています。

露光装置のニコンとオランダASMLの例は、もっとはっきりした例かもしれません。すべてを手がけられるニコンは、ずっと自前で取り組み続け、その力が十分にはなかったASMLは、基幹コンポーネントであっても外部の力を借りるスタイルを続けました。両社のシェアはある時点で逆転し、いまではニコンが追いつくことが難しくなっています。

例からわかるように大企業がなにかを創り出す時代は終わりつつあるということです。
ならば、チームとしてオープンイノベーションを引き起こすことを目指す方が、確実だと思います。そして、そこでは、日本の中小企業にもチャンスがあると思うのです。中小企業の腰の軽さを活かして他社と組み、イノベーションを生みながら世界トップクラスの品質の良い商品を創り出すというのは、大企業よりも意思決定の早い中小企業だからこそ、やり易いと思うからです。

 

<連載第3回・完>

 

田中 芳夫(たなか・よしお)

東京理科大学大学院イノベーション研究科教授
青山学院大学大学院ビジネス法務客員教授
(独)産業技術総合研究所参与

1973年東京理科大学工学部電気工学科卒業。同年、住友重機械工業(株)に入社し、Online system設計などのシステム開発に従事。1980年に日本IBMの研究開発製造部門に入社。世界向けの製品・サービス・ソフトウエアの開発、マネージメント、および 副社長補佐。1998年にIBM Corporation R&D Aisi Pacific Technical Operation担当。2001年、研究開発部門 企画・事業開発担当理事。2005年、マイクロソフトCTO就任。2007年、(独)産業技術総合研究所参与、青山学院大学大学院ビジネス法務客員教授。 2009年、東京理科大学大学院教授。 現在、国際大学GLOCOM 上席客員研究員、日本工学アカデミー会員。

◇主な著書 
『MOT歴史の検証 (共著)』(丸善) 2008

田中 芳夫(2017)/ 「産業構造は「製品別」から「社会システム別」に」、
『日経ビジネス ONLINE 』、2017年5月25日
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/274502/051000024/

連載

第一回 生き残る企業の明暗を分ける「考え方」

第二回 「下請け」思考を捨てたときに起こる9つの劇的な変化

第四回 新価値を生むための秘訣は「オープンな議論」

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