BREAKTHROUGH発想を学ぶ

技術者は「失敗が起こるのは当たり前だ」と思いながら、技術開発に臨んだほうがよい畑村 洋太郎<連載第2回(全4回)>

2018.10.25

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「失敗学」というフィルターを通じて、国内外の企業に深く関わっている畑村氏にとって日本の技術者の印象とは。全4回連載の第2回目のテーマは「技術者にとって必要なことは何か」。日本の技術者の特徴や、技術開発を進めていく上で気をつけたいポイントなどを独自の視点で語ってもらった。


日本の技術者の特徴について

厳しい言い方になってしまいますが、視野の狭い技術者が多いように感じます。これからの技術者にとって必要なのは、あらゆる世界をもっと広く、もっと深く見ることです。歴史を遡ってお話すると、明治維新以降の日本は欧米の技術をお手本にすることで、まったく新しいところにチャレンジしなくても技術開発をうまく行うことができました。しかし、お手本とすべきものがあったからそれができたので、今はそうはいかなくなりました。もっと主体的に物事を考え、全体を見ることが重要になっています。

技術者にとって、技術力を高めることは確かに必須条件です。しかし、技術力を高めることだけに注力するのは、ある意味、ラクなのです。「技術」に逃げこんで、自分の得意な技術のことだけを考えていれば良いのですから。これからは「どうすれば、お金を儲けることができるか」までを考えることが大事です。今までのように、「そこは経営トップや営業担当がやってくれるだろう、自分の仕事ではない」なんて考えているようでは、これからの進歩が望めないですよね。
いわば技術開発によって収益までのバリューチェーンがイメージできるよう、技術者自らが企画を立案して判断できるようになることが今、求められています。

それではこれからの技術者は具体的にどのような資質を持ち、どのような点を磨いていけばよいのだろうか?

技術者が気をつけたいポイント

「良いものをつくれば売れるはずだ」ということは、もう「ない」と思った方が良いでしょう。例えば、iPhoneのような製品は飛躍的なアイデアと実現力がつながることで生まれてきました。iPhoneのことを考えた場合、技術者なら、どんなメーカーがどのぐらいの価格でつくっているかが気になるはずです。さらには、製品のパーツの一つひとつがどのようにつくられているかまで思いを巡らしてみることも大事でしょう。それができるかどうかが、技術者がものづくりをビジネスに結びつけられるか、ということにつながっていきます。

実は、私が主宰者の一人である研究会で、iPhoneの中身を調査研究してみたことがありました。そこでわかったのは、iPhone5のパーツは日本製品が半分以上使われていることでした。そして加工のための工作機械も日本製のようでした。このことからも日本製品の評価が高く、信頼性があることがわかります。そして、もう一つわかったことは、アップルが自社工場を持たないメーカーでありながら、生産技術に精通している開発者が設計していると推測できることです。
パーツに関して言えば、一つひとつは、これといって驚くようなものではなく、一般的にも手に入るようなものを組み合わせているような印象を受けました。非常に残念なのは、作ったのはアップルであって日本のメーカーではないということ。iPhoneのようなスマートフォンのアイデアは日本のメーカーにもあったと思います。

しかしながら、自ら考えて頭の中でシミュレーションを行い、これからの世の中の動きや人々のニーズに思いを巡らせて、収益に至るまでのバリューチェーンを考え抜き、勝負に出たのはスティーブ・ジョブスでした。ここに日本の技術者との決定的な差がありました。技術者がこれからものづくりをする場合、iPhoneの例のようにバリューチェーンを含めた発想をすることが非常に重要になります。

収益までのバリューチェーンを考えた場合、技術者が関わる領域はさらに広くなる。言い換えれば、あらゆる工程の中で「失敗するかもしれない」状況が増えることになる。技術者は失敗とどう向き合っていけばよいのだろうか。そして失敗してもめげすにチャレンジする精神とは。

失敗することの意義、チャレンジについて

2000年に『失敗学のすすめ』(講談社)という本を出版しました。「失敗学」とは私がずっと長く携わってきた機械設計の分野から生まれたものです。「失敗を隠さずに、失敗体験を調査分析し、蓄積し、体系化する。そこから学習することで、避けられる失敗は避け、よりよい成功につなげる」という失敗学の基本となる考え方は、頭を使って考え、何かを創り出すすべての分野に通じています。
失敗してしまうのは、何かしらの目標に向かってチャレンジしている時です。技術開発においても新しいことにチャレンジすれば、予期せぬことが起こるのは当然です。ですから失敗は必然的に起こること、うまくいかないことが当たり前だと思いながら、決定的なダメージとならないためにはどうすればよいか、リスクヘッジを考えて技術開発に臨んだほうがよいでしょう。

失敗体験というものは、後々のものづくりに大変役立ちます。失敗によって、新しい技術や方法が生まれるのですから、失敗の先には「成功」があるのです。成功することで、失敗が活かされるといえます。失敗体験を成果につなげ、そこに止まることなくチャレンジを続ければ、次の失敗に遭遇します。このように、失敗と成功を繰り返していくことで、設定される課題の内容はどんどん高くなっていきます。
私はこうした過程を「失敗と成功の螺旋」と呼んでいます。この「失敗と成功の螺旋」は創造力を大いに育んでいきます。技術者にとっては、失敗を繰り返す勇気を持ちながら、より質の高い成功を目指してチャレンジしていくことが何より大切な姿勢であるといえるでしょう。

失敗と成功の螺旋
(出典:『成功にはわけがある』朝日新聞社)

 

<連載第2回・完>

 

連載

第一回 技術開発において、日本はかつての成功体験から離れられなくなっている

第二回 技術者は「失敗が起こるのは当たり前だ」と思いながら、技術開発に臨んだほうがよい

第三回 「新しい価値」に着目し、潜在化している価値を具現化することで利益が生まれてくる

第四回 技術者にとって大切なのは、自分で考えてみること。外の世界ともっとつながりをもつこと


畑村 洋太郎(はたむら・ようたろう)

1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科卒業、同大学院修士課程修了。日立製作所勤務を経て東京大学教授。2001年に退官。東京大学名誉教授。専門は失敗学、危険学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。2002年にNPO法人「失敗学会」、2007年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。2011年6月より東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員長会委員長などを務める。著者は多数あり、2000年に出版された『失敗学のすすめ』は、現在までに発行部数40万部を誇る。近著に『技術の街道をゆく』など

<主な著書>
『失敗学のすすめ』(講談社)2000年11月刊
『技術の創造と設計』(岩波書店)2006年11月刊
『未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ』(講談社)2011年7月刊
『技術大国幻想の終わり-これが日本の生きる道-』(講談社)2015年6月刊
『技術の街道をゆく』 (岩波新書)2018年1月刊

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