BREAKTHROUGH発想を学ぶ

再考すべき“4つのウェア”赤池 学<連載第3回(全4回)>

2018.02.21

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100年企業のビジネススタイルから学ぶ

「下堂園」の例では、新価値創造によって、生産者はもちろん、JRやJTBにとっても大きなメリットがありました。こうした取り組みこそ「CSV」の典型例と言えるでしょう。ゴルフカートでトップシェアを握るヤマハ発動機は、石川県輪島市とコラボレーションして、全国で初めてゴルフカートが公道を走る新交通システムの導入を進めています。このゴルフカートは、高齢者など、交通弱者の移動手段になるだけでなく、観光客の足としても活用することできます。さらに、輪島市の費用負担の軽減にも貢献するでしょう。公共セクターにおいても「CSV」の考え方が広まっています。

100年以上続く長寿企業は日本に約27,000社あります。世界でダントツに多いのですが、これらの企業には「CSV」に取り組んでいるという共通点があります。公益性の高い事業であることはもちろん、バリューチェーンそれぞれにとってメリットのあるビジネスモデルが構築されています。製造方法のほか、原材料の調達の方法や取引相手を変えないという特徴も見られます。変えているのは、時代に即応した販売方法のみ。取引相手を変えないことで、生産者との紐帯を強固にし、バリューチェーンを育てていく。こうした100年企業のビジネススタイルは、中小企業であっても見習うべき部分が多いのではないでしょうか。

 

“4つのウェア”のどれかに問題がある

ここからは、少し大きな話になりますが、未来のデザインについて考えていきましょう。デザインは、本質的に見れば地球上すべての人のためのもの。「ユニバーサルデザイン」という考え方がありますが、現状、障がい者など社会的弱者と呼ばれる人たちのものとして限定されています。しかし、「ユニバーサルデザイン」はそうした範囲の狭い概念ではありません。70億人の地球市民のほか、次代のユーザーである子どもたちや子孫、今は亡き先人、人間を含めたすべての多様な生物にまで広げて考えるべきです。国連では「SDGs(エス・ディージーズ)」と呼ばれる17の目標を掲げていますが、自社の提供する価値がこれに沿っているのか見てみるとよいでしょう。

「ユニバーサルデザイン」を社会的弱者に限定しがちなのは、固定概念から抜け出せていないから。大手のメーカーでは、サステナブル対応など、環境対応であることをアピールしていますが、子どもや妊婦さんなどにとってメリットのある商品やサービスを提供すると宣言している企業はあまり見たことがありません。これでは、企業経営は今後立ちゆかないでしょう。子どもを産み育てやすい環境をつくるために、自社の持っているテクノロジーやサービスがどのように使えるのか。デザイン思考になれば、妊婦さんや子どもを産みたい女性に受ける商品が作れ、新しいビジネスモデルが展開できるはず。視野を広く持つことで、いくらでも商品は開発できます。2008年に「キッズデザイン賞」のグランプリを受賞した基礎体温計は、温感センサーを内蔵したユニークなもの。ここでもデザイン思考がキーポイントになっているわけです。

デザイン思考を実践するためには「ハードウェア」「ソフトウェア」「ソーシャルウェア」「センスウェア」という“4つのウェア”からビジネスを検証するとよいでしょう。ビジネスがうまくいっていないのは、このうちのどれかに問題があるからです。例えば、国では、2足歩行ロボット(ハードウェア)を開発していますが、ソフトウェアが間違っているからビジネスになっていない。「ソーシャルウェア」は、ステークホルダーすべてにとってメリットのあること。先述した「CSV」に必要不可欠な「バリューチェーンへのメリット」にも通じる概念です。そして「センスウェア」は、心と五感に訴求する価値のことです。大和ハウス工業が開発したアザラシ型ロボット「パロ」は、精神的なセラピー効果を目的としたもの。「パロ」には、乳幼児が持つようなあやうさがありますが、ユーザーは言語化してその魅力を説明することが難しい。こうした製品でも十分に売れる可能性がある。“4つのウェア”のプランニングは、どの段階にある企業でもトライしてみるべきです。「センスウェア」は難しいと思われがちですが、マインドがチャーミングであれば、自然と備わるもの。「既存の商品にファンキーな使い方はないだろうか」という問いをぜひ発してみてください。

<連載第3回・完>


赤池 学(あかいけ・まなぶ)
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長
経済産業省産業構造審議会研究開発小委員会委員
文部科学省革新技術審査委員会審査委員
農林水産省バイオマス・ニッポン総合戦略推進委員
武蔵野美術大学デザイン情報学科講師
早稲田大学環境総合研究センター客員教員
北九州市環境首都リサーチセンター主任研究員
日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査委員
キッズデザイン協議会キッズデザイン賞審査委員長

1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

◇主な著書
『生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術』(NHK出版)2014年7月刊
『自然に学ぶものづくり図鑑』(PHP研究所/赤池学監修)2011年1月刊
『昆虫がヒトを救う』(宝島社新書)2007年10月刊
『昆虫力』(小学館)2006年7月刊
『自然に学ぶものづくり』(東洋経済新報社)2005年12月刊
『ニッポン テクノロジー』(丸善)2005年6月刊
『新 製造業サバイバル論』(ウエッジ)2005年3月刊
『トヨタを知るということ』(日経ビジネス人文庫)2004年11月刊

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