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プラスチックが現在の化学工業をつくったといっても過言ではない宇山 浩/大阪大学大学院教授

<連載第1回(全4回)>

2018.12.18

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世界各国でプラスチックに対する議論が進みつつある。身近な例では、大手コーヒーチェーン店やファーストフード店でもプラスチック製ストローの廃止が宣言されるなど、その動きは急速化しており、日本の経済やものづくりの現場に少なからず影響を及ぼすと考えられる。
今回の有識者インタビューは「石油以外のものからプラスチックを作り出す」研究の第一人者、大阪大学大学院工学研究科応用科学専攻の宇山浩教授にお話しを伺った。
トウモロコシなどからつくられる「バイオプラスチック」の可能性とプラスチック代替への対応の動き、中小企業との産学連携やこれからのものづくりの在り方などを全4回にわたって紹介する。


第1回目のテーマは「なぜ今、プラスチックが世界的な課題となっているのか?」について。
宇山教授には、最初にプラスチックについて定義してもらい、現在のプラスチックを取り巻く環境についてお話いただいた。プラスチックは現在、毎日の暮らしに欠かせないものとなっている。しかし、改めてプラスチックの特徴について私たちは深く考えたことがあるだろうか。その歴史は意外にも浅く、日本国内で広まったのは高度成長期以降のことだ。

プラスチックの定義とその特徴について

プラスチックに関していえば、学問の上で高分子化合物の存在が証明されたのは1930年代です。それ以前は低分子しか存在しないと考えられていたのです。今の若い方はご存知ないかと思いますが私が子供の頃、バケツはブリキのものでした。それが今では、ほとんどプラスチック製であるように、高度成長期以降、私たちの生活の中に急速に浸透していきました。80年少しの歴史しかありませんが、プラスチックが現在の化学工業をつくったといっても過言ではないと思います。
プラスチックが良いのは、なんといっても“軽い”ことです。私が今持っているクリアファイルも、プラスチック製で軽いです。これが鉄だったら重いですよね(笑)。これだけ世の中に普及したのはまず軽くて、成形がしやすいこと。汎用性が高いゆえに様々な製品や用途に使われるようになったのだと思います。金属に比べると溶けやすく、製造にかかわるエネルギーが少なくて済むため省エネになることもメリットといえますね。

またプラスチックは成分によって様々な種類があります。数にすれば100種類以上ありますが、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニールが5大汎用プラスチックと呼ばれており、全体の7割を占めています。
特にポリエチレン、ポリプロピレンは比重が1もなく、海で浮いてしまうため、ゴミとなったプラスチックは海水に流されて遠洋まで運ばれていきます。これが今、海洋ゴミと呼ばれプラスチックが問題となる原因の一つになっています。

種類も豊富で、軽く汎用性があり、暮らしの中に広く浸透しているプラスチックが今、問題視されている。その背景にあるものとは?そして私たちはプラスチックとどのように接していけば良いのだろうか。

プラスチックが問題視される理由

プラスチックは石油が原料のため、石油の枯渇問題とプラスチックを結びつけて議論される傾向があります。その気持ちも理解できますが、今、産業の原料としての石油を否定すると、世の中の構造そのものが変わってしまいます。人類が今まで築き上げたものをそんなに簡単になくす必要はないのではと思います。ただ、石油は炭素源であり、化学の重要な原料ですから、将来に備え石油のかわりの化学原料を用意しなければならないのは事実です。
石油由来の製品は様々ありますが、中でもプラスチックが問題視されるのは、レジ袋やペットボトルなどが必要以上に供給されていることと関係があります。それらは我慢すれば使わずに済むものですし、私たちの生活と密接に結びついているため、より問題になる傾向が強いのではないでしょうか。レジ袋やペットボトルなどは、目に見えるところをセーブしていく啓発活動が大事だと思います。
もう一つの問題は、先ほども話しましたが海洋ゴミとなることです。海洋を漂うプラスチックは、光や波の力で小さな破片となってマイクロプラスチックとなります。これを魚などの海洋生物が摂食してしまうため、魚の内蔵からマイクロプラスチックが検出されています。便となって排出されれば人間が魚などを食しても問題はないのですが、やはり口の中に入るものですから、気になる部分もあるかと思います。

それではプラスチックが世界的に問題視される中、ものづくりにおいてプラスチックと関わるケースが多い企業についてはどのように捉えているのだろうか。

日本の企業とプラスチックの関わりについて

日本の製造業とプラスチックは、切っても切れない関係だと思います。例えば日本の自動車の1/4はプラスチックでできていますし、電子材料や医療機器にも多く使われています。プラスチック成形の技術はどんどん進化しており、それと同時に日本の企業のものづくりが発展したことも事実です。
日本の企業の特徴は、ものづくりをする場合、常にオーバースペックということが挙げられます。スペックを下げることをしないのです。家電メーカーの製品などがいい例だと思いますが、製品のミニマム化をあまりしません。日本人はものの良し悪しにこだわる国民だと思います。
プラスチックに代わる新素材を考える場合、そうした国民性も影響してきます。例えば、プラスチックの代替品として、バイオプラスチックが今、台頭してきてはいますが、物性はまだ開発の余地があり、値段も高いのが実情です。スペックが下がっても消費者側に、受け入れてもらえるかが課題となります。
そうした状況の中、日本の企業がバイオプラスチックなどの代替素材を導入するかは、企業のカラーや経営方針などにも関係があるのではと思います。今、バイオプラスチックの話がでましたので、次回はそのお話をできればと思っています。

取材日:2018年11月5日

<連載第1回・完>

 

連載

第一回 プラスチックが現在の化学工業をつくったといっても過言ではない

第二回 新しいプラスチックで、何をアウトプットすべきかを明確にすることが大事

第三回 産学連携では、大学と企業の双方が信じあえることがベスト

第四回 「オープン・イノベーション」の概念でプラスチック代替のアイディアを


宇山 浩(うやま・ひろし)

1962年 神戸市生まれ。京都大学工学部卒。同大学院大学大学院工学研究科修了。花王株式会社の研究員を経て、88年東北大学工学部助手となる。97年に京都大学大学院に移り、工学部工学研究科助手、2000年工学研究科助教授となる。2004年より大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻教授。高分子材料化学の専門家として、中小企業をはじめとする様々な企業と研究・開発を進めている。

<受賞歴>
・高分子学会 Polymer Journal 論文賞(平成7年)
「Dispersion Polymerization of N-Vinylformamide in Polar Media. Preparation of Monodisperse Hydrophilic Polymer Particles」
・日本化学会 進歩賞(平成9年)
「酵素触媒を用いる新しい高分子合成反応の開拓」
・日本農芸化学会 農芸化学研究企画賞(平成17年)
「再生可能な植物資源を基盤とする新規グリーンポリマーの開発」
・第8回バイオビジネスコンペJAPAN 最優秀賞(平成20年)
「安価なバイオマス原料からのポリ乳酸系新材料の開発」
・高分子学会 平成29年度三菱化学賞(平成29年)
「植物油脂を用いた機能性高分子材料の開発」

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