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環境、エネルギー、資源、ナノテクノロジー等の分野に有効活用できる「溶融塩電気化学プロセス(MSEP)」技術の実用化・事業化アイ’エムセップ株式会社

2019.02.28

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塩を高温で融解してできた液体「溶融塩」

学ぶべきポイント

  • 個々の元素の特性を見極めて利用した、新しい化合物や材料の開発
  • 鉱物資源の乏しい日本でできる、金属、および様々な元素の有効活用方法の開発
  • 金属の、環境負荷の小さい製錬やリサイクル技術の開発

私たちの身の回りにある電化製品、パソコンや自動車などには多くの金属が使われており、金属なしに性能を維持することは困難だ。それらの金属元素は、通常鉱物として自然界に存在しており、鉱物から目的の金属を取り出す「製錬」や、そこで得られる地金を製品として利用したあとの金属をリサイクルし、さらに付加価値を高めて再利用する必要がある。その方法の1つが電気分解だ。
電気分解は、目的に合わせていろいろな化合物を液体(電解液)に溶かし込んで、そこに電圧をかけることにより、陰極で還元反応を、陽極で酸化反応をそれぞれ起こして、目的とする物質を得る方法だ。電解液に使用される代表的な液体は「水溶液」だが、金属によっては、「水」を溶媒とする限りは取り出せないものがある。そんな時、「水溶液」のかわりに「溶融塩」を電解液に使うと、より多くの種類の金属を取り出すことが可能になる。この「溶融塩」を電解液として用いる技術を「溶融塩電気化学プロセス(MSEP:Molten Salt Electrochemical Processエムセップ)」という。
この「MSEP」を利用して、金属の取り出しや多種多様な電気化学反応を用いての新材料の創製やめっきなどの高機能化に取り組んでいるのがアイ’エムセップ株式会社だ。

「溶融塩」とは「塩」が溶融(融解)してできた液体」を指す。
塩(えん)は酸とアルカリが中和してできたもので、もっとも私たちにとって身近な例は食塩(しお)としても利用される「塩化ナトリウム」だが、他にもたくさんの種類がある。
溶融塩の一般的な特徴としては、以下のようなものが挙げられる。
・種々の物質をよく溶かし、溶解度が大きい
・高温でも蒸気圧が低く、さらさらした液体として安定し存在する
・化学的に安定し有意義な電気化学的測定領域が広く導電率が高い
・放射線に対する耐性に富む 等
また、種類の異なる塩を混ぜ合わせることで、融点を始めいろいろな特性が変わるので、さまざまな優れた能力を発揮させることもできる。

アイ’エムセップ株式会社は、長年MSEPの研究に携わり京都大学、同志社大学の教授を務めた伊藤社長が中心となり、同志社大学発のベンチャー企業として2006年4月に誕生した。目指しているのはMSEP技術を使って得られる物質や材料の性質を掴み、活用していくことだ。
現在、同社では4つの独創技術の開発が事業化に向けて動いているという。具体的な取組内容を伊藤社長に伺った。

1つ目は、「溶融塩」を電解液に用いた「炭素めっき」だ。
水溶液系等では実現できない炭素めっきを、溶融塩の電気分解を活用して世界で初めて実現したものだ。「炭素めっき」には、以下のような利点がある。
・耐食性:金めっきに匹敵するほど耐食性にすぐれている
・導電性:導電性が高いため接触抵抗(二つの物体を接触させて電流を流すとき、その界面近傍に存在する電気抵抗)が低い
・密着性:従来の炭素コーティングに使用される気相法(PVD法、CVD法などで代表される、低い圧力の気体の間で起こる化学反応によって生じた物質を、基板上に堆積させて薄膜を形成する方法)で得られる炭素膜よりも格段に優れた密着性がある
・経済性:低コストで連続・大量生産が可能 等
伊藤社長によると、自動車用の燃料電池やリチウムイオン電池、電気化学キャパシタ(畜電器)の部材としてデバイスの性能や寿命を飛躍的に向上させることができるという。

SUS304板(ステンレス板)上に形成された炭素めっき。
基板との密着性に優れた「緻密質炭素めっき膜」燃料電池のセパレータへの応用が期待される

2つ目は、ナノ粒子製造。プラズマ誘起カソード電解法という、陰極放電現象を利用した電解によって溶融塩中の金属イオンを還元し、溶融塩中に金属のナノ粒子を形成する方法である。これを使い、ケイ素、チタン、タングステン、タンタル等の金属や様々な合金のナノ粒子が形成できる。粒子の微細化、均一化に成功しており、大型で連続製造も可能な装置を現在、試作中だ。

3つ目は、アンモニアの電解合成。アンモニアは肥料や薬品・繊維などの原料として利用されているが、今後はエネルギーキャリアとしての用途も加わって大幅に需要が伸びると予想されている。
現在のアンモニア合成法は、天然ガスから得られる水素と空気から得られる窒素を高温・高圧下の触媒反応でアンモニアに転換する「ハーバー・ボッシュ法」であるが、合成の過程で大量の二酸化炭素が発生してしまう。これでは、世界の人口増加に対応するための食糧増産に不可欠な窒素肥料の供給という面だけで見れば優れた方法ではあるものの、地球温暖化防止に有効とされる二酸化炭素削減という面では問題になる。
しかし「溶融塩」の中へ窒素ガスを供給しながら電気化学反応によって窒素のイオンを生成させ、そこに水蒸気を入れることでアンモニアを合成する方法であれば、二酸化炭素を発生させず、再生可能エネルギーからの電力でアンモニアを合成できる。

4つ目は金属リサイクル。製品として使われていたものから有用で高価格な金属を取り出し、リサイクルする。金属の中でもレアアース金属(希土類金属)はハイテク機器には欠かせない必要なものだが、日本ではほとんど採れない。そこで、安定的な供給を考えた際、国内のスクラップの中から効率よくリサイクルすることが必要になってくる。最近、都市鉱山という言葉を耳にするようになったことでもリサイクルが求められていることがわかるだろう。
例えば、エアコン、ハードディスクに使われているネオジム磁石の場合、スクラップから回収するためには、大量の酸を用いて全量を溶解した後、アルカリにより鉄分を沈殿させ、残った溶液から希土類成分を酸化物として回収することになる。さらに希土類成分を元素ごとに分離回収するためには、高価で環境負荷の大きい溶媒を使った50段以上の抽出分離工程が必要だ。リサイクルコストがかかるため、日本では本格的なリサイクルはほとんど行われていないのが現状だ。
同社では、環境負荷が大きく高価な溶媒を使用せず、溶融塩電解だけでネオジム磁石からの希土類金属の選択的回収が可能だと伊藤社長はいう。先端産業には欠かせないレアアースは、資源がなく、輸入に頼っている日本では供給不足も懸念され、需要は今後ますます高まるといわれている。同社の技術は日本の未来に大きく貢献すると期待されている。

「MSEP」は、このように環境、エネルギー、資源、ナノテクノロジーなどさまざまな場面に貢献する技術だ。それだけに取り組み規模が大きく、研究・開発におけるコストもかかる。
一社だけで対応するには困難なものが多く、同社では製品化・実用化するために一緒に取り組む企業を求めているとのことだ。

取材日:2019年2月8日

 

企業情報

アイ’エムセップ株式会社

当社は他に類を見ない「溶融塩電気化学プロセス(Molten Salt Electrochemical Process:MSEP)」技術の実用化・事業化を目指して設立された研究開発型ベンチャー企業である。保有する知財のライセンシングや基礎研究から量産技術開発までのサポートを通じて社会に貢献する。

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