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「モノ」モデル時代と「ソリューション」モデル時代では、生産性向上へのアプロ―チは異なる元橋 一之/東京大学教授

<連載第1回(全4回)>

2019.02.19

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近年、日本の産業競争力は低迷を続けている。また、少子高齢化による生産年齢人口の減少、さらには、技術やノウハウの伝承・後継者不足など悩ましい問題も数多い。
そうした問題を解く1つのカギは「生産性向上」だ。
今回の有識者インタビューは、「モノ」から「ソリューション」への変革を唱える、東京大学工学系研究科(技術経営戦略学専攻)の元橋一之教授にお話を伺った。
工業経済からデジタル経済への移行に伴って、企業が、特に中小企業が生き残るためには、何を目指し、どう変化すればいいのか。「生産性向上」の観点から、全4回にわたって紹介する。


かつて、世界1位だった日本の競争力も、今や20位前後だ。しかし、競争力が低迷する現在も、「日本の実力が落ちたわけではない」と元橋教授は言う。ではなぜ、ランキングで日本は大きく順位を落としているのか?
第1回目のテーマは「世界経済の変化について」。生産性という観点から読み解くために、まずは、生産性の定義を再確認することから始めたい。

これまでの時代の生産性

生産性とは、単位インプット当たりのアウトプットで表されるものです。 生産を行うときに必要な原材料や機械設備、土地や建物、労働者などの生産資源をどれだけ投入(インプット)したかと、その際、得られた産出量(アウトプット)との割合です。
式で表すと、以下のようになります。

■生産性を表す式

得られた成果(アウトプット)/投入資源(インプット)=生産性

IMD (International Institute for Management Development)が作成する「世界競争力年鑑」を見ると、1989年の公表開始から1992年まで、日本は総合第1位でした。その後も1996年までは、5位以内をキープしていました。
明治時代以降、欧米の産業を見本として追随してきた結果、高品質な製品を低価格で効率よく生産することに秀でた日本は、当時は、世界市場を席巻していたのです。まさに、モノを作って売る、「モノ」モデルの時代です。あるいは、モノを作る工業が経済の中心をなす、工業経済の時代ともいえます。
当時の日本は、高品質と生産性の高さを両立していることが武器でした。企業は生産性をさらに高めるために、トヨタ自動車のかんばん方式などのように、ムダを極力排除することで生産性の上昇をはかりました。先の式に当てはめると、分母であるインプットを減少させ、生産性を向上させようとしたのです。効率化ともいわれる方法です。
「モノ」モデル時代の生産性は、効率化を念頭に、いかにインプットを減らすかを考えられてきました。日本はこの方法で大きな成果を得ていましたが、近年は、競争力を大きく落としていると評価されています。

IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移
出典:IMD World Competitiveness Yearbook 各年版より三菱総合研究所作成

生産性の向上とは、ムダをなくし効率化することと考える方は多いと思う。現在の日本では、効率化だけでは国際的な競争力を確保できないのだろうか?世界の競争力を見る目はどうなっているのだろう。

「モノ」モデルから「ソリューション」モデルへ

それまで5位以内をキープしていた日本の競争力ですが、1997年以降は急速に順位を下げ、現在の競争力は20位台です。しかし私は、日本の製造業などの実力が落ちたわけではないと考えています。では、どうして競争力が落ちたのでしょうか。理由は2つあります。

1つ目は、かつて日本が欧米を目標に「追いつけ、追い越せ」と努力したように、日本を目指して韓国や中国などが追随してきました。日本が得意としたものづくりを模倣する国が増え、日本の優位性は薄らいでいきました。品質面が同等か近似であれば、価格競争に陥ります。あとから参入する国は人件費などが安くコスト面で優位なケースが多くなりますから、日本は厳しい戦いを強いられるようになったというわけです。

2つ目の理由は、IMDの「競争力年鑑」に表れています。この調査は、統計データと大企業の経営層へのアンケート調査から順位を決定しています。このアンケート調査は、時代にあわせて大きく変化しています。1990年代前半までは製品のクオリティや労使関係の良好さなど、モノづくりの現場の質を問う設問が中心でしたが、最近は、ホワイトカラーの生産性や事業戦略、グローバル社会への対応など経営層の質を問う設問が増えています。

こうした設問の変化は、IMDが顧客とするグローバル企業の大企業の経営層の視点の変化を表しているのだと思います。彼らは、近年、競争力の源泉としてモノづくりの質よりも、企業のグローバル戦略を重視するようになりました。
なぜなら、モノづくりの質は、モノを作って売るだけの「モノ」モデルの時代には必要不可欠な要素でしたが、日本を含む先進国においては、つくったモノをどのようなサービスと結び付け提供するのか、経営戦略が問われる「ソリューション」モデルへの移行が重要だからです。
たとえば自動車産業は、車を作って売るだけでなく、ライドシェアなど自動車を利用したモビリティサービスに、IT産業はコンピューターというハードを売るのではなく、クラウドを利用したソフトウェアサービスに移行しています。
ただ残念ながら、日本の企業は高い技術力を磨くことにまい進して、ビジネスイノベーションを基軸としたソリューションモデルへの移行に消極的な傾向がありました。そのため、競争力が低いと評価を受けるようになったのでしょう。

「ソリューション」モデルへの移行の遅れが、競争力の低迷につながっていた。
では、「ソリューション」モデルと生産性の関係とは。

「ソリューション」モデル時代の生産性

「ソリューション」モデルは、世界の経営層が、自社製品である「モノ」をただ売るだけではなく、どうすれば利益を最大化することができるかと考えて辿り着いた方法です。
この確立には、インターネット環境などのインフラが整備され、ビッグデータやサイエンスデータが豊富に蓄積されていたことが、大きく寄与しています。経営層は自分の勘や感覚などに頼らず、ビッグデータや科学的手法から得られた事実などを根拠として、「ソリューション」モデルを構築したのです。
こうした「ソリューション」モデルは、「モノ」を売る事業より、顧客のニーズを深くくみ取ったサービスですから、付加価値の向上、ひいては収益の増加につながります。
先の生産性を求める式で考えると、「ソリューション」モデルは分子であるアウトプットを増やすことが目的であり、生産性は向上するでしょう。

生産性アップのために、「モノ」モデル時代には、分母であるインプットを減らす効率化を進めました。しかし、生産性を向上させるための方法は、効率化だけではありません。今では、分子であるアウトプットを増やすことが、大変重要になっています。そのためにも、「モノ」モデルからステップアップさせた「ソリューション」モデルへの移行を、日本は急がねばならないのです。

取材日:2019年1月15日

<連載第1回・完>

 

連載

第一回 「モノ」モデル時代と「ソリューション」モデル時代では、生産性向上へのアプロ―チは異なる

第二回 オープンイノベーションのなかで生き抜くために、中小企業は戦略が必要だ

第三回 大学と連携してIoTを進めることで、自社の強みを「見える化」し、生産性を向上させる

第四回 エコシステムのなかで生き残るために、個性輝くニッチプレイヤーを目指す


元橋 一之(もとはし・かずゆき)
東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)

1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。
経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。

◇主な著書
・『アライアンスマネジメント』(白桃書房)2014年4月刊
・『日はまた高く 産業競争力の再生』(日本経済新聞出版社)2014年2月刊
・『グローバル経営戦略』(東京大学出版会)2013年3月刊
・『日本のバイオイノベーション』(白桃書房)2009年11月刊

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