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協業が新価値を創造する赤池 学<連載第2回(全4回)>

発想を学ぶ

2018.02.20

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自社だけでは提供できない価値をコラボレーションで提供

デザイン思考があれば、組織を超えた協業が一気に進み、新たなビジネスモデルが生まれます。JTBとJCBがコラボレーションした「電気自動車(EV)観光ステーション」による地域活性化が好例でしょう。ユニークなのは「カーシェアリング」を導入した点。従来、中山間地の移動は、レンタカーが担っていましたが、これでは気軽に観光することができません。そこで、観光客と地域住民がEVをシェアすることで、これまで難しかった山奥での観光が容易になりました。とはいえ、利用を促進するためには、相応数の「電気自動車(EV)観光ステーション」が必要です。そこで、地域に1,500あまりの「電気自動車(EV)観光ステーション」を設置し、観光客がすぐに利用できる体制を整えました。さらにユニークなのが、「電気自動車(EV)観光ステーション」にクレジットカードによる決済機能を持たせた点。クレジットカード会社であるJCBがコラボレーションしたことによって、新たな価値を創出した事例と言えるでしょう。

2020年の東京オリンピックを控え、今後さらにインバウンド需要が高まるでしょう。そこで、農林水産省は、付加価値の高いフルーツを外国人観光客に販売しようと躍起になっています。とはいえ、フルーツは生ものであることから、検疫が必要で、外国人観光客にとっては購入のハードルが高いモノです。さらに、輸送も課題です。この問題に取り組んだJTBは、空港内に自社の事務所があることを活用して検疫代行を提供しています。ここでコラボレーションしたのがNECとヤマト運輸。NECの個人認証技術とヤマト運輸の輸送力を活用することで、自社だけでは提供できない価値を創出しています。

大企業だけでなく、ベンチャー企業でも協業が進んでいます。日本ユニシスは、チャレナジーと協働して、革新的な発電技術とIoTを組み合わせた次世代風力発電サービスを開発しています。日本ユニシスはクラウドマネジメントを、チャレナジーは機械学習やビッグデータ解析技術というそれぞれが持っている強みを共有することで、革新的なサービスが生まれました。技術が急速に変化する時代においては、自社だけでサービスを提供するのではスピードが遅い。だからこそ、時宜に応じたコラボレーションが必要なのです。今後、中小企業においてもこのような事例が増えてくるでしょう。

 

バリューチェーンにメリットがある「CSV」

こうした事例から学べることは、かつてなかったところに「補助線」を引くことの重要性です。例えば、JTBがJCBやヤマト運輸などと出会っていなければ、新しい価値は創造できないわけです。この「補助線」は、自社だけで容易に引けるものではありません。ときには、しかるべきファシリテーターと連携することも必要でしょう。新たにファシリテーターを探す場合は、「ネットワークがどのくらいあるのか」「プロデュース実績」などを精査することが大切です。

これまで紹介したビジネスが新たに創造している価値は「CSV(Creating Shared Value。共有価値の創造)」で説明できます。「CSV」は、経済学者であるマイケル・ポーター教授が提唱したもので、「公益性の高いものを開発していること」「バリューチェーンにメリットがあること」などのポイントがあります。「電気自動車(EV)観光ステーション」の事例では、公益性が担保されているだけでなく、観光客のみならず、地域住民にとってもメリットがあることに気づくでしょう。

ここで、典型的な「CSV」の事例を紹介しましょう。鹿児島市高麗町で鹿児島茶の販売店として創業した「下堂園」は、「鹿児島生まれの日本一美味しいお茶づくり」を目指して研究開発を重ねている企業。これまで、鹿児島茶を代表する品種「ゆたかみどり」を使用した数々の銘茶を生み出してきた。「下堂園」は、有機栽培の茶を生産する農家を支援し、組織化していましたが、「まっとうな生産者のお茶をできるだけ高く買い上げたい」という想いを実現できずにいました。そこで、当社による製品プロデュースが始まったのです。地元の水を使用し、超音波を駆使することで、お茶のうまみだけを抽出。パッケージにも工夫を凝らし、従来のお茶の概念を覆すワインボトルを使用しました。販売価格は5,400円と高価であるものの、当社がお付き合いのあるJRグループで採用され、「ななつぼしin九州」で常時提供されています。さらに、JTBにも目が留まり、首都圏のホテルにおいて高級なお茶を求めている外国人観光客にも喜ばれています。

<連載第2回・完>


赤池 学(あかいけ・まなぶ)
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長
経済産業省産業構造審議会研究開発小委員会委員
文部科学省革新技術審査委員会審査委員
農林水産省バイオマス・ニッポン総合戦略推進委員
武蔵野美術大学デザイン情報学科講師
早稲田大学環境総合研究センター客員教員
北九州市環境首都リサーチセンター主任研究員
日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査委員
キッズデザイン協議会キッズデザイン賞審査委員長

1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

◇主な著書
『生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術』(NHK出版)2014年7月刊
『自然に学ぶものづくり図鑑』(PHP研究所/赤池学監修)2011年1月刊
『昆虫がヒトを救う』(宝島社新書)2007年10月刊
『昆虫力』(小学館)2006年7月刊
『自然に学ぶものづくり』(東洋経済新報社)2005年12月刊
『ニッポン テクノロジー』(丸善)2005年6月刊
『新 製造業サバイバル論』(ウエッジ)2005年3月刊
『トヨタを知るということ』(日経ビジネス人文庫)2004年11月刊

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