BREAKTHROUGH発想を学ぶ

技術者にとって大切なのは、自分で考えてみること。外の世界ともっとつながりをもつこと畑村 洋太郎<連載第4回(全4回)>

2018.11.08

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情報化が進んだこれからの社会では、AI(人工知能)を導入したりIoTをさらに活用したものづくりがますます発展していくだろう。連載最後の4回目では、技術の進化と「安全」について、AIと技術者の関係、さらには今後の進むべき方向と可能性、技術者へのメッセージを畑村氏に語っていただいた。


技術の発達により、例えば自動運転化が進んでいけば、人々の暮らしは便利になるはずだ。しかし技術の著しい進化に対し、社会全体が抱く漠然とした不安は否めない。畑村氏が考える、「技術と安全」について伺った。

「制御安全」と「本質安全」について

現在の世の中にある機械類は、センサとコンピュータを組み合わせたシステムにすれば安全が確保できるといわれています。これらは「制御安全」と呼ばれるものです。
「制御安全」は確かに合理的な側面があり、利便性も高いでしょう。しかし、考え方として「制御安全」が「本質安全」をカバーするわけではありません。まず「本質安全」の実現があって、その上で「制御安全」を加えてより安全に、より便利にすることが重要です。「本質安全」について議論せずに「制御安全」に依存すると、本来の安全の意味を見失しなってしまうことがあるのです。
技術者は新しいものづくりをするときは、「本質安全」に立ち戻って、もう一度「この製品にとっての安全とは何か」について深く考える義務があるのではないでしょうか。

今、技術の進化における究極の形はAIとされているが、AIについて、畑村氏はどのように捉えているのだろう。

AIと技術者の関係について

AIについては、その可能性に注目が集まり、人間の仕事を奪ってしまうのでは、とも 言われています。しかし、私が思うに、AIが人間よりも優れているのは「囲碁」と「将棋」だけではないかと…(笑)。これは冗談ではなくて、ちゃんとした理由があるのです。人間の脳には「意味」の抽出、「意図」の抽出といった上位概念を引き出す能力があります。しかしAIにはそれができないからです。先ほど話したようなものづくりにおける「フロント・ローディング」※のような考え方では、AIでなく、人間の能力、ひいては「技術者の考える能力」が発揮されるでしょう。
※「フロント・ローディング」については第3回目を参照

「フロント・ローディング」のように、構想・企画に重点が置かれるなら、その可能性を発揮する余地はまだ十分にある。それでは、わが国のものづくりは今後、どのような方向に進むべきなのか。

これから進むべき方向や可能性について

ものづくりに関していえばモノとコトとを別に考えるのではなく、すべてが一体となる必要があると思います。iPhoneがいい例ですが、情報を集めて、人々の希望のようなものを形として結び付けていく企業が、市場を独占するのではないでしょうか。
日本は欧米諸国の技術に追随することから確かに発展してきました。連載第1回目にお話しましたが、高度経済長期の成功体験から逃れられないことが、今の日本の閉塞感の一つの原因であります。この意識を変革するにはまだ時間がかかるのではないでしょうか。
しかし、私は、こうも考えるのです。「じっくりと腰を据えて技術開発やものづくりを行うのであれば、日本という国は適している」と。なぜならば、日本という国の特色を考えた場合、アジア諸国に比べて技術開発に関する経験の蓄積がある、そして何より、政治を含む国内情勢が安定している。この「国内が安定している」ということは技術開発においては非常に重要で、長期的な研究や技術開発がしやすいのです。このメリットは、ぜひ活用してほしいものです。

最後に畑村氏から技術者へのメッセージをいただいた。

技術者へのメッセージ

日本企業が技術で生きていくとすれば、技術という一部だけでなく、全体を理解できる人材が必須となります。技術者が、コストも含めたものづくりに関わるすべてのことを把握していれば、それが武器になりえます。また中小企業であれば、規模がコンパクトである分、工程の全体像が理解しやすい、フットワークも軽いというメリットがあります。

そして技術者にとって大切なのは、自分で考えてみること、外の世界ともっとつながってみることです。ものづくりにおいては、「失敗もある」ということを前提にする。やったことがないのであれば失敗するのも当然でしょう。そして、何もやらなければ失敗もしません。やって失敗したことに目をつぶって忘れてしまうのもダメ。何がダメで失敗したのかを検証し、そこから学ぶこと。そこにこそ飛躍のタネが隠されているかもしれません。
そうした姿勢で常に進化をし続け、努力を怠らないで、ものづくりに挑めば、この国の未来も大きく変わっていくはずです。

<連載第4回・完>

 

連載

第一回 技術開発において、日本はかつての成功体験から離れられなくなっている

第二回 技術者は「失敗が起こるのは当たり前だ」と思いながら、技術開発に臨んだほうがよい

第三回 「新しい価値」に着目し、潜在化している価値を具現化することで利益が生まれてくる

第四回 技術者にとって大切なのは、自分で考えてみること。外の世界ともっとつながりをもつこと


畑村 洋太郎(はたむら・ようたろう)

1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科卒業、同大学院修士課程修了。日立製作所勤務を経て東京大学教授。2001年に退官。東京大学名誉教授。専門は失敗学、危険学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。2002年にNPO法人「失敗学会」、2007年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。2011年6月より東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員長会委員長などを務める。著者は多数あり、2000年に出版された『失敗学のすすめ』は、現在までに発行部数40万部を誇る。近著に『技術の街道をゆく』など

<主な著書>
『失敗学のすすめ』(講談社)2000年11月刊
『技術の創造と設計』(岩波書店)2006年11月刊
『未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ』(講談社)2011年7月刊
『技術大国幻想の終わり-これが日本の生きる道-』(講談社)2015年6月刊
『技術の街道をゆく』 (岩波新書)2018年1月刊

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