BreakThrough 企業インタビュー

SDGsに対する社員の理解を得て、社会に新しい価値を提供株式会社大川印刷

<連載第2回>(全2回)

2019.10.10

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中小企業においても、SDGsを経営に取り入れ、売り上げ向上や利益率アップにつなげていくことは可能──。これまで地道に取り組んできた環境対策の経験を生かしながらSDGsへの対応を進め、多数の新規取引先を獲得した株式会社大川印刷の事例は、そう私たちに教えてくれます。

しかし施策を成功させるためには、社員の協力が欠かせません。創業138年の老舗企業は、いかにしてボトムアップによるSDGsへの取り組みを成し遂げたのか。連載の第二回目では、そのプロセスを明らかにしていきます。


環境やCSRへの取り組みから、SDGsの導入へ

同社が、他社との差別化を目指して環境への取り組みに力を注ぎ始めたのは、事業環境が厳しくなったバブル崩壊後のことでした。最初に取り組んだのは、再生紙の利用促進と大豆油インキの導入です。

「実際には変化を嫌う社員もいましたし、すぐ利益に結びついたわけでもありませんでした。ただ、現場スタッフが、『石油系溶剤の臭いがなく、工場の空気がよくなった』と喜んでくれたんです。環境対応は、自分たちのためにもなる。そこに社員が気づいてくれたことが、まずは大きかったと思います」

やがて2000年代に入り、時代の流れは“環境経営”から“CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)”へ移行していきます。同社も事業を通じて社会に貢献する「ソーシャルプリンティングカンパニー」®のパーパス(存在意義)を掲げ、FSC(Forest Stewardship Council®/森林管理協議会)森林認証紙の活用などを推進。社員によるCSR委員会も複数設置し、活動の幅を広げました。しかし何年か経つと、「私は本業の印刷をやりたいのに、CSR活動に時間をとられすぎる」と不満が聞かれるようになったのです。

「数ある印刷会社の中から当社を選んでもらうには、単に印刷物という“モノ”をつくるだけでなく、社会的課題を解決する“コト”づくりが欠かせません。そこで『本業の印刷をするため、大川が地域や社会から必要とされる企業になるためのCSRなんです』と説得。何とか理解を得て、意識の共有も進みました」

こうした経験を土台に、同社はSDGsへの取り組みを進めていくことになります。

 

SDGs対応推進には、社員の主体性が不可欠

SDGsのことを知って「自社が事業で取り組むべき課題が整理されたものだ」と直感し、取り組みを開始したという大川氏。基本の考え方は今までと同じですが、SDGsという“枠組み”を導入したことで、売上にも直接的なプラスの影響が現れるようになりました。そして2018年には、政府が主催する「第2回ジャパンSDGsアワード」のSDGsパートナーシップ賞(特別賞)も受賞。審査でも認められたとおり、本業で実現可能なボトムアップ型の活動として、社員の主体性を大切にしながら施策を進めています。

「当社では毎年の経営計画も社員参加のワークショップで策定しており、SDGsについても、社員が同じ形でいくつかのプロジェクトを進めています。具体的には『いま、うまくいっていること』『うまくいっていないこと』『やってみたいこと』『実現へのバリア・課題』という四つの視点から意見を出し合い、方針と活動を決めていきます」

社員が「自分が貢献できるチーム」を選び、任意で参加する形にしたことで「やらされ感」もなくなり、結果的には全員参加も実現しました。SDGsをビジネスの機会につなげていくには社員の理解とコミットメントが不可欠。同社で「FSC森林認証紙」の使用率が59%まで向上したのは、社員がその価値を理解し、顧客にしっかり説明したからだとも言えるでしょう。

 

SDGsで自社の提供価値を再定義

自社の認知度を高めながら活動への支持や協力を得ていくには、情報発信も重要です。

「当社ではSDGsに焦点を当ててウェブサイトを刷新し、SNSでの発信やSDGs報告会の開催も行っています。発信は『どこかで誰かが見てくれている』と信じ、継続していくことが大切だと考えています」

中小企業の多くは、どうしても目先の作業に時間も労力も奪われ、「SDGsなど無理」という考えに陥りがち。それが最初のハードルだと大川氏は言います。

「ただ、社会や地球のため、『SDGsなんて当社には関係ない』という発想を捨てる必要があると思います。当社ではSDGsを経営戦略に落とし込む過程を経て、自社の価値の再定義も行うことができました」

自社の役割を「情報産業の中核としてハブの役目を務め、地域の社会課題解決へと提案型の事業を行う」と位置づけ、2030年までに世界一の環境印刷会社を目指すと語る大川氏は、最後に次のような構想も明かしてくれました。

「SDGsのゴールの一つに『パートナーシップで目標を達成しよう』という項目があります。CO2を削減するにも、自社だけでは限界がある。例えば当社で蓄積したノウハウをもとに新たな価値を提供する印刷会社のフランチャイズシステムなども検討しながら、社会課題の解決と、業界全体の活性化を進めていけたら嬉しいですね」


連載「中小企業としてSDGsを経営戦略に取り入れ、多数の新規取引先を獲得」

第一回 中小企業としてSDGsを経営戦略に取り入れ、多数の新規取引先を獲得
第二回 SDGsに対する社員の理解を得て、社会に新しい価値を提供


企業情報

株式会社大川印刷

代表取締役社長・大川哲郎(おおかわ・てつお)

1881年の創業以来、横浜で事業を展開。従業員37名(2018年8月時点)。記事本文で取り上げた以外のSDGsへの取り組み例として、外国人への情報格差をなくすための多言語版おくすり手帳や、色覚障がい者に配慮した卓上カレンダーなどユニバーサルデザインの関連製品も企画・販売。他企業・NPOと「川でつながるSDGs交流会」を立ち上げ、地元の大岡川で環境活動などを行い連携の輪も拡大中。大川氏は大学卒業後、他社で3年間修行し、1993年に同社へ入社。2005年より6代目社長。

取材日:2019年8月9日

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