BreakThrough 企業インタビュー

リスクを取った人だけが、本当の自由を勝ち得る株式会社ブレイン

<連載第2回(全2回)>

2019.12.19

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トレイ上のパンの種類と数を瞬時に識別する「BakeryScan」。この製品開発の話が株式会社ブレインに持ち込まれたのは、2007年のことでした。それからリリースまでにかかった約6年の間には、どのようなステップがあり、ブレークスルーの決め手は何だったのでしょうか?


生き残るために「BakeryScan」の研究開発をスタート

同社は、繊維の街である兵庫県西脇市に本社を構えます。繊維の試し織り工程を自動化するための研究開発を行っていた07年に、パンの画像識別の話が持ち込まれました。

「当時、国内の繊維市場は頭打ちだと感じていました。それに比べて、パン屋は日本全国どこにでもある。調べてみると総数は1万3000社にも上ることがわかりました。直後のリーマンショックで経営も厳しくなり、挑戦することの面白みも当然ありましたが、それ以上に生き残るためにこの話に乗ったわけです」

開発に先立って実験店舗が作られ、そこでマーケティング調査が行われました。その結果得られたのは、「パンの種類を3倍強に増やすと、店舗の単位面積あたりの売上は約1.5倍増」「包装せずに並べて売れば、売上は3倍増」といったデータでした。

「つまりパン屋を経営する上では、扱うパンの種類は多い方がいいが、そのパンを包装することはできないため、バーコードなどによる識別は困難ということになります」

開発の焦点は、包装されていないパンの識別。しかし、そこにはパンならでは2つの問題が立ちふさがりました。

「1つ目は違う種類でも形や色がよく似ている異種間の類似性です。2つ目は反対に同種間の個体差。同じ種類でも仕上がりは完全に同じにはなりません。それらを正しく識別するのは非常に困難な挑戦でした」

人間をAIがではなく、人間がAIを助ける。発想の転換がブレークスルーの鍵に

3年ほどで実験室内においては50種類のパンを98%の精度で見分けられるようになったものの、パン屋はそれぞれ明るさが違い、またパンも火加減や生地の状態などによって焼き上がりの色合いが微妙に異なります。幸運にも経産省から補助金がおり、技術開発に没頭するための資金の目処はたちましたが、精度100%にはどうしても届きません。その状況を打破したのは発想の転換でした。

「AIは人を助けるものと考えがちですが、AIの不足分を人が補ってあげたらどうだろうと考えました。ですから『BakeryScan』は完璧に識別するわけではありません。確度の高い順に緑、黄色、赤で表示し、レジ担当が最終的に確認する仕組みになっています。このレジ担当による最終確認をAIが学習し、どんどん精度が向上していくのです」

その後、実験的に導入した店舗での改善点やデザイン面の改良などを経て13年3月の販売開始に至りました。その後の反響やがん研究への技術の応用といった活躍ぶりについては、連載第1回で触れたとおりです。

「BakeryScan」の画面。識別確度の高さを、緑、黄、赤の色で示している。

開発・販売を支えたのは、人との出会いや数々の連携

今日に至るまでにはさまざまな人との出会いや連携があったそうです。

「兵庫県立大学以外の複数の大学とも連携してきました。豊富なシーズを持つ大学はまさに宝の山です。そして実は大学の敷居は決して高くありません。私は関連ワードを検索して出てきた先生の研究室を直接訪れ、連携をスタートさせるようなこともありました」

また、販売に関しては、大企業の営業力と販売網が物を言います。

「やはり大手の販売力は桁違いです。『BakeryScan』の販売実績のうち9割程度が契約している大手メーカー経由になります」

一方で、連携する際には特許や権利関係への注意も必要。同社もかなり苦い経験をしているといいます。それでも「リスクはとるべき」と力を込める神戸氏は、最後にものづくり中小企業へのエールとして、米国の詩を引用し次のような言葉で結んでくれました。

「一般的に、日本の教育は安全を教え、親は生活が安定することを望んだりします。でもリスクをとらないことこそ人生で一番危険なことだと私は思います。リスクをとらない人は、苦しみや悲しみから逃げられるかもしれないが、学ぶことも成長することもできない。本当の自由を勝ち得るのは、リスクを取った人だけなんです」


連載「リスクを取った人だけが、本当の自由を勝ち得る」

第一回 パンを瞬時に識別するAIレジを開発。がん研究への応用にも期待大
第二回 リスクを取った人だけが、本当の自由を勝ち得る


企業情報

株式会社ブレイン

代表取締役社長・神戸 壽(かんべ・ひさし)

繊維産業が盛んな兵庫県西脇市で、1982年にPCショップとして創業。その後、熟語変換ソフトやNHKの文字情報表示システムの開発、繊維の画像識別の技術開発などを行うなかで、コンピューターシステムの研究開発が事業の柱に。2013年に「BakeryScan」を開発し、この技術を応用したさまざまなソリューションを展開中。

取材日:2019年11月15日

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