BREAKTHROUGH発想を学ぶ

新価値創造を可能にする「思考展開」杉田 直彦<連載第2回(全3回)>

2018.04.11

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生産システムの全体最適化が問われている

「短いリードタイムでほしい製品がほしいときに入手できる」。これは、製造業に時代を問わず求められていることでしょう。これを実現する生産体制を構築ためには、これまで行われてきた部分最適ではなく、生産システム全体の最適化が必要不可欠です。

そのような生産システムでは、サプライチェーンも製造システムも水平化されます。タイや中国など、海外に工場がある企業も多いですが、需要に合わせた製造拠点間の連携などが問われています。また、製品が多様化している昨今、柔軟に再構成可能な製造システムがなければ生き残りは難しいでしょう。エンジニアリングチェーンやデジタル統合のほか、プロダクト管理の必要性も声高に叫ばれるようになってきました。

「思考展開」によって新しい解決策を発見

このように製造業に求められるものが変わりつつあるなかで、新しい発想法による新価値の創造が問われるようになってきました。そこで、私が教授をつとめる東京大学大学院では、基礎知識をもとに、新価値の創造を注視した授業を行っています。スローガンは「思いを言葉に、言葉を形に」。私は、このことを「思考展開」と呼んでいます。あらゆるものごとは、「目標設定」から「課題分析」そして「解決案選択」「具体策決定」「作戦実行」というルートをたどります。

ここで、ビールジョッキの製造を例にとって「思考展開」を実行してみましょう。このとき、「目標設定」は「ビールを飲むこと」です。そのために「ビールを飲むための器がほしい」と。次に、ここにある課題を分析(「課題分析」)すると「冷えたまま飲みたい」「ぐいっと飲みたい」もしくは「琥珀色を楽しみたい」という欲求が出てきます。そして、「解決案選択」では、「冷蔵庫で予冷」することや「大熱容量の材質で作らないといけない」ことに気づくでしょう。また、琥珀色を楽しむためには中身が見えないといけないので、「素材はガラスがよさそうだ」ということがわかります。このように言葉を用いて思考を展開していけば、ビールジョッキに至ることがご理解いただけたでしょうか。

「思考展開」のメリットは、網羅的に考えることができる点。見落としていることがないか、容易にチェックすることが可能なだけでなく、見落としていることを起点にした新しい解決策を発見することもできます。人間の発想は、「課題」から「要求機能」そして「実現する機構」「機構を統合した構造」を経て行われます。一般的に「課題」と「要求機能」は“目的”、「実現する機構」と「機構を統合した構造」は“設計解”と呼ばれています。ものづくりにおいては、「モノが~できる」あるいは「モノが~である」という要求機能に関して“設計解”を出すことが問われています。しかし、ここで見落としてはならないのが「目的こそが最大の発明である」ということ。例えば、インターネットがなかった時代に、「インターネットみたいなことができたらいいな」と“目的”を考えた人こそが最大の発明者です。つまり、“目的”こそ、最も大切なことです。“目的”は上位概念、“設計解”は下位概念とも呼ばれています。私たちは、“設計解”はもちろん、「そもそも何をしたいのか」という“目的”すなわち上位概念に〈上って〉思考する習慣を身に付けたいもの。そうすれば、新しい発想が生まれるだけでなく、見落としていたものがないか、確認できるようになるでしょう。

分かりやすく、自動洗濯機を例にとって説明しましょう。自動洗濯機の上位概念は「自動で洗濯する」こと。このためには、繊維と汚れを分離することが必要です。下位概念は「繊維と汚れの界面から分離する」「汚れだけを溶かす」。ここで下記の図のように、上位概念に〈上って〉いくと、「自動で洗濯しない」と考えることができるでしょう。私たちが洗濯機を使う“目的”は「洗濯を楽にしたい」ですよね。自動洗濯機は、ひとつ上の“目的”を満たすものであったことがわかります。このように、上位概念に〈上って〉考えることで、「洗濯アルバイトを雇う」など、新たな“設計解”が生まれ、これまで必然だと思われていた要求機能(自動洗濯機)は、ひとつの手段に過ぎないことに気づかされます。こうした「思考展開」は、ものを創造するうえでとても大切なことです。さらに「いや、洗濯なんかしない」と考えてみると、「清潔な服を着たい」という別の上位概念が生まれます。こうなれば、「汚れない衣服」や「使い捨ての衣服」といった下位概念にたどり着き、新しい発想が可能になると気づくでしょう。

次回は、手術支援ロボットの現状について解説します。

<連載第2回・完>


杉田 直彦(すぎた・なおひこ)
東京大学大学院工学系研究科教授

1970年兵庫県姫路市生まれ.石川県金沢市育ち。1996年に東京大学大学院工学研究科産業機械工学専攻修士課程修了し、日本電気株式会社に入社、マイクロ波衛星通信事業部所属。2003年に東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助手となり、2007年に准教授、2014年に教授に就任、現在に至る。専門分野は、生産工学・医用加工・計測学。研究分野は生産加工(切削加工、レーザ加工、レーザ援用)、工作機械(CFRP構造体)、医療応用(人工関節、骨切除デバイス、手術支援システム)など。

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