BREAKTHROUGH発想を学ぶ

エコシステムのなかで生き残るために、個性輝くニッチプレイヤーを目指す元橋 一之<連載第4回(全4回)>

2019.03.12

SHARE
  • facebook
  • twitter

前回の第3回は、生産性の向上のために、中小企業もIoTをカギになるというお話を伺った。IoT活用のためには、大学や公的研究機関との連携が欠かせない。また、オープンイノベーションという観点からも、連携は重要なポイントだ。最終回となる第4回は、「企業が連携を進めるときに必要な考え方とは」をテーマにお話を伺う。


1対1の関係から、複数のグループ化へ

中小企業は従来、カスタマーである大企業と1対1の信頼関係を築いてきました。取引先が複数あったとしても、1対1の関係性が複数あるにすぎません。また、前回お話した中小企業と大学などとの連携も、基本的に1対1の関係であることが多いでしょう。
ですが、これからは、複数の企業や大学などがグループを作り、グループ全体の価値向上を図りながらビジネスを進めるケースが増えていくと思います。

例を挙げて説明します。アメリカのアップル社は、ご存知のとおり、iPhoneのシステムソフトウェアであるiOSを提供しています。iOSは、スマートフォンを動かす基幹的なプログラムですが、これだけでは競争力のある商品とはいえません。そこでアップル社はiOSを元にプラットフォームを作り、様々なアプリを提供してくれる企業を誘致しました。個性豊かなアプリが数多く存在するほど、iPhoneの魅力が増すと考えたのです。
こうした協力体制をとる企業集団を、動植物の生態系になぞらえて「エコシステム」と呼んでいます。エコシステムでは、プラットフォームを提供する、先の例ではアップル社のような中心的存在を「キーストーン」、様々なアプリを提供する多くの企業は「ニッチプレーヤー」と呼ばれます。

1対1の関係からエコシステムへと移行すると、企業の行動や考え方を変える必要があるだろう。中小企業はニッチプレーヤーになることが多いと思うが、その役割とはどんなものだろうか。エコシステムが大きくなればなるほど、埋もれていくニッチプレーヤーが増える危惧を覚えるが、ニッチプレーヤーの生き残る道とは。

ニッチプレーヤーは個性で生き残る

エコシステムの中で、キーストーンは、自社の利益最優先の姿勢ではなく、プラットフォーム全体の利益アップを図るようにふるまいます。自社のみの利益を追求し、ニッチプレーヤーを搾取する方向に進むと、ニッチプレーヤーが離れていってしまい、結果的に商品の魅力が落ちて、売上に影響するからです。
一方で、ニッチプレーヤーにとって重要なのは、個性です。オンリーワンの個性が際立つことで、プラットフォーム上にあるたくさんのニッチプレーヤーの中でも埋もれずに、選ばれ続けることができます。
中小企業は、エコシステムの中でニッチプレーヤーになることが多いと思いますが、オンリーワンの技術を持つ中小企業にとって、エコシステムは歓迎すべき環境といえるでしょう。なぜなら、プラットフォーム上では企業規模ではなく、自社技術の個性で勝負できるからです。個性的なニッチプレーヤーがプラットフォームの多様性を支え、魅力度が高まる、つまり全体の価値も上昇するのです。

そもそも中小企業は、どうやってエコシステムに参入すればいいのだろうか。あるいは、中小企業がエコシステムを作ることもできるのだろうか。

中小企業とエコシステム

オンリーワンの技術がすでにあって、科学的な原理もわかっていれば、その技術を武器に既存のエコシステムに参入することは、それほど難しくないでしょう。
ですが、多くの中小企業は自社技術の科学的原理が解明できておらず、技術は持っているものの、他社との明確な差別化には至っていないというところが多いと思います。そうした中小企業は、大学や公的研究機関と連携を図りながら、大学などを軸にして、ゆるやかな企業グループを作っていくとよいでしょう。大学にキーストーンの役割を担ってもらい、大学教授がもつリーダーシップや人脈を活用して、新たなエコシステムを創造していく、といった展開も可能でしょう。
もちろん、中小企業自身がキーストーンになることもできます。東京都墨田区にある株式会社浜野製作所は自らがキーストーンとなって、自社の保有する基盤技術や異業種とのネットワークを生かしたプラットフォーム、Garage Sumida(ガレージスミダ)というものづくりベンチャーの育成施設を作りました。最新のデジタル工作機器などを揃え、ベンチャー企業のアイデアを元に、熟練の職人たちがモノづくりを支援するネットワークです。ベンチャー企業であるオリィ研究所が、コミュニケーションロボット「オリヒメ」を製品化するなど、成果も出ています。

連載の結びに

中小企業が生産性向上を考えるとき、以前は、分母を減らす効率化に注力する傾向がありました。しかしこれからは、「ソリューション」モデルを念頭に、広く事業展開することで、売上・利益を増やすことが、生産性の向上に重要となってくるでしょう。 また、エコシステムの中でも、個性が輝くニッチプレーヤーは企業規模の影響をそれほど受けずに選ばれ続け、プラットフォームの価値を高める存在になれるでしょう。
今後、中小企業が生き残るためには、オンリーワンの技術をより一層磨き、生産性を高め、輝く個性に進化させることが大切です。その第一歩として、まずは自社の強みをもっと科学的に「見える化」するため、IoTやデータの活用から取り組んでみてはいかがでしょうか。

取材日:2019年1月15日

<連載第4回・完>

 

連載

第一回 「モノ」モデル時代と「ソリューション」モデル時代では、生産性向上へのアプロ―チは異なる

第二回 オープンイノベーションのなかで生き抜くために、中小企業は戦略が必要だ

第三回 大学と連携してIoTを進めることで、自社の強みを「見える化」し、生産性を向上させる

第四回 エコシステムのなかで生き残るために、個性輝くニッチプレイヤーを目指す


元橋 一之(もとはし・かずゆき)
東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)

1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。
経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。

◇主な著書
・『アライアンスマネジメント』(白桃書房)2014年4月刊
・『日はまた高く 産業競争力の再生』(日本経済新聞出版社)2014年2月刊
・『グローバル経営戦略』(東京大学出版会)2013年3月刊
・『日本のバイオイノベーション』(白桃書房)2009年11月刊

SNSでシェアしよう

関連記事