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なぜ医者が?私が医療機器の開発に携わるようになったワケ植木 賢<連載第1回(全4回)>

発想を学ぶ

2018.03.12

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「本当に役立つ医療機器」の開発を産学連携で推進

私が所属する鳥取大学医学部付属病院・新規医療研究推進センターでは、企業とともに医療機器の開発を行っています。これまで開発した医療機器は、漏れにくい紙おむつ「アテント」や医療用ドリル「月光ドリル」、医療用タグ付け器「たぐりん。」など、11製品にも上ります。当センターには、医師だけでなく、エンジニアや製薬メーカー勤務経験者など、多様な専門性を持つ人材が揃っています。この回では、私が医療機器の開発に携わるようになった背景をお伝えします。

鳥取大学がこのような産学連携の取り組みを始めたのは2012年のこと。当時の病院長がリーダーシップを発揮して設立した「次世代高度医療推進センター」がきっかけです。このセンターでは、「再生医療部門」や「ゲノム医療部門」などの最先端医療を推進する部門のほか、私が部門長を務めることとなった「医療機器部門」を含む5部門体制が敷かれました。その後、当院が「次世代高度医療推進センター」を発展的に改組し、新規医療研究推進センターが設立されました。

設立当時から一貫して掲げているのは、新しい価値の提供。病院は、質の高い医療を提供する場ですが、地域住民や企業が集い、新たなイノベーションを起こす創造的なところでもあります。私自身、地元の中小企業とともにさまざまな研究テーマで医療機器の開発に取り組んできました。他業種の方々と連携すると、医師だけでは絶対に思いつかないアイデアを得ることができるため、刺激を受けています。

2007年には、鳥取大学工学部の教職員と一緒に内視鏡を作りました(医工連携)。私は、もともと発明に興味があり、ダンボールや折り紙などで手製の内視鏡を作っていましたが、どうもうまくいかない。しかし、工学部の教職員に手を借りて共同で作ると、思い描いたものがすぐに形になりました。このことは、連携に秘められた価値を大いに感じさせる出来事でした。その後、企業と連携して、内視鏡を開発したところ、最初30cmだったサイズが4~5cmに、そして最後には1cmにまで小さくなりました。産学連携によって、「患者に本当に役立つ医療機器の開発は可能だ」と感じ、とてもワクワクしましたね。

医療機器が全世界の医療を発展させ、患者を救う

私の専門は消化器内科ですが、医学生時代は整形外科医を目指していました。しかし、「人工骨頭置換術」における術後の回復が、ベテラン医師よりもロボットが手がけた手術のほうが早いという現実を目の当たりにして、消化器内科を志すようになりました。すでにロボットが人を凌駕している領域で医療を提供するよりも、医療機器に改善の余地のある消化器内科のほうが面白いのではないか、そう思ったのです。

実際、内視鏡ひとつとっても、患者はいまだ涙を浮かべて検査を受けているのが実態。医療は発展しているのに、こんな状況が放置されているのは絶対におかしいですよね。しかし、待てど暮らせど、医療機器メーカーから、画期的な内視鏡は出てくる様子はありません。1年間で1,000人以上もの患者を診察するなかで、忸怩たる想いが募っていきました。大腸がんは、男女とも主要な死因のひとつですが、検査があまりにも辛いためか、受診が遅れ、尊い命が失われる現場にも立ち会ってきました。「このまま“他力本願”でいいのか」そう考えたときに、「一生かかってでも楽に検査が受けられるようにしたい」という想いがこみ上げてきたのです。

大腸内視鏡には、身体の組織を回収する脚が付いていますが、その脚を3本から5本に改善したところ、診療時間が短縮された事例を研修医時代に目の当たりにしました。そして、現在では、5本脚の大腸内視鏡が当たり前のものとなっています。蓄積された医療の経験が医療機器としてアウトプットされ、医療の常識が日々塗り替えられています。医療機器を通して、全世界の医療の発展に貢献できるのならば、これほど幸せなことはありません。研修医時代は、医療機器のアイデアを手帳に書き留めて、試行錯誤を繰り返していました。

次回は、医療機器市場の現状と医療現場発のものづくりにかける想いについてお話します。

<連載第1回・完>


植木 賢(うえき・まさる)
鳥取大学医学部付属病院 新規医療研究推進センター 研究実用化支援部門長 教授
医学博士
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本内科学認定医
日本肝臓学会専門医
日本消化器病学会専門医

1972 年 鳥取県生まれ。平成10年大分医科大学医学部医学科卒業、平成17年鳥取大学大学院医学系研究科修了。平成21年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター講師、平成24年鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター特命准教授、平成24年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター特命准教授、平成26年鳥取大学医学部附属病院次世代高度医療推進センター(現新規医療研究推進センター)教授、現在に至る。

◇主な著書
『肝疾患診療のコツと落とし穴』(中山書店/植木賢共著)2015年1月刊

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