見えないIT

世界的にファクトリーオートメーション(FA)への投資が活発になっています。
IT化やIoT化といった言葉は一部の産業に限った話ではなくなりました。
そんな時代の背景にあって、まだ馴染みのないものとして、うちには関係ないと考えている企業人は少なくないと感じます。
今回は、「インダストリー4.0 時代を生き残る!中小企業のためのIoTとAIの教科書」の著者でもあり、
実際に中小企業の現場改善支援をされている株式会社浜テクアートの島崎浩一さんに
実際に今現場で起こりつつある問題から解決ツールとしてのITやIoTの導入のお話を伺います。

ジャンプする技術進歩

長崎

製造業だけではなく、あらゆる業種でデジタル無しでは生き残れない時代になっていますね。アメリカのスタートアップなどは、零細企業からスタートし、中小企業を通り越して、世界的な大企業になっている会社が多く存在します。そのような時代にあって、なぜ日本の中小企業は同じような過程を進めずにいるのでしょうか?

島崎

日本の多くのものづくり企業は、クオリティーの高いものづくりをやっていれば自然に儲かるのだと考えています。そして経営者自身がものづくりとITは相反するものだと考えて、そんなことをやらなくても大丈夫だろうと思っている節がある。そんな危機感の薄さを私は危惧しています。

長崎

うちとは関係無いという考え方ですね。そうは言っても地方の山の中でさえ、インターネットで物が届く時代ですよね。

島崎

自分たちの生活様式がテクノロジーによって、目まぐるしく変化しているにもかかわらず主体的になれていない。危機感を持てずにいるポイントは「進化」に対する認識だと思います。日本の中小企業では製品やサービスの進化は徐々にしていくものだと考えているようですが、世界では「イノベーション」によって技術がジャンプします。

長崎

今までの技術的進歩は緩やかに進んでいましたけど、現代では全然違いますよね。世界的に技術が遅れていたところが、それまで市場シェアをもっていた企業をジャンプして抜いていくということが起きています。

島崎

中国などは顕著。今ではキャッシュレスが当たり前で、AIなども目を見張る進歩で進んでいます。
もちろんキャッシュレスが一気に広がったのは文化的背景もあります。中国では偽札が多く、クレジット決済のほうが信頼性高いという理由で一気に広がりました。

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IT化が浸透しない「下請け」現場

長﨑

島崎さんの著書の中でもFA(ファクトーオートメーション)やスマート工場などの話が出てきます。
世界的なトレンドとしては、そっちにいかざるえない状況になっているのでしょうか?

島崎

私はそう思っています。しかし、多くの企業が移行できていないというのが現実です。資金的に投資を躊躇するのは当然あると思いますが、もっと根本的なところで日本の中小企業は、「下請け」精神が根付いているのが原因の一つだと思います。

長﨑

大企業の傘の下にいれば安心と考えている企業は多いですよね。

島崎

今は傘の下にいても、けして安心といえる状況ではないですよね。最近私が支援する川崎市から、日本を代表する企業が撤退しました。そうすると下請け企業は作るものがなくなり、困ってしまう。もともと上から自動的に仕事がくるので、そもそも営業をしたことがない中小企業が多い。急に頼みの綱が切れて、慌てるという現実がすでに起きています。そうなる前に策を講じる必要がある。IT化などは乗り遅れるとどんどん周回遅れになっていきます。

長﨑

下請け体質から抜け出さないといけないという中小企業も多いと思いますが、なぜできないと思われますか?

島崎

もともとの生い立ちが下請け企業で、受け身の体質でやってきているため、自主的に動けないのだと思います。ITやIoTでスモールスタートできたらいいのですが、もちろんお金はかかってきますので、財政的に厳しいという理由で二の足を踏んでいる企業も多いのではないでしょうか。

長﨑

テクノロジーの導入には、人的資源不足もありますよね?

島崎

もちろんあります。ものづくり技術者は多くいますが、IT技術者はほとんどいない。企業の社長がIT、IoTに関して理解がなければ、その企業内でIT活用しようという考えになりにくいですよね。

長﨑

いくつか問題はありますが、最初のボトルネックは、企業オーナーのITやIoTの理解ということですね。次のボトルネックは、導入だと思うのですが、まずIT、IoT化はどこから始めればいいのでしょうか?

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IT化は創意工夫で始められる

島崎

人や機械の稼働状況を「見える化」するというのが一番着手しやすいところです。高級なシステムではなく、創意工夫でスモールスタートが可能です。

例えば「旭鉄鋼」さんの話は好例。愛知県のトヨタ自動車系部品メーカである旭鉄鋼は、生産性向上を考えて、IoT導入を考えていました。まずはシステムメーカに相談しましたが、非常に高額な金額のために諦めました。そこで自分たちで秋葉原に出向き、光センサとリードスイッチを大量に購入してきて製造設備に取り付けました。部品が完成されるごとに点灯するライトを光センサが感知するや、完成品が押し出されるたびに動く部分にスイッチを取り付けることで生産時間をおおまかに把握できるようにしました。結果、生産性をあげて、さらに生産増強のために予定していたライン増設が不要になり、1億円以上の設備投資資金を浮かすことに成功しています。

長﨑

IT化というのは複雑なシステムだけではないという好例ですね。単純なセンサなどを活用したスモールスタートでもIT化のひとつと言えますね。

島崎

ラズベリーパイ(Raspberry Pi)※1などもセキュリティ問題が懸念点としてありますが、活用してみてもいいのかもしれません。そこで自社内の作業でもIT化ができるとわかったら、段階的に拡張していけばいいのではないでしょうか。

※1 ラズベリーパイは、英ラズベリーパイ財団が開発した超小型のシングルボードコンピューター

長﨑

会議の席でデジタル化だ!IT化だ!といってもダメで現場に立ってみないとわからないということですね。

島崎

中小企業においては、現場の小さな作業を無くしていくことが、IT化の原点になると思います。今まで人的に行ってきた改善活動を、楽にしていこうという発想になるべき。システムを導入しただけで、生産性改善できると考えている人も少なくないですが、本当のニーズになるポイントを理解した上で、ステップアップしていくということが大事です。

長﨑

業務を総点検してみるといいかもしれませんね。一番どこにボトルネックがあるのか。
そこを広げるためにどんなことに、どんなデータがあればいいのかという点が導入の初歩になる。

島崎

自分たちの改善活動で、どこが一番面倒だと感じるのかを知るというのがポイント。例えば時間を計って、作業を止めてから帳票に記載するといった一連の流れをシステム化できるだけでも時間が浮くし、より正確な時間が計れます。「見える化」を進めてもデータが不正確では本当の意味での改善活動は進みません。

長﨑

簡易的な手作業は機械化できるのでしょうか?

島崎

組み立てなどの手作業のデータを取るのは特に難しい。機械はセンサで自動化できますが、人の作業では「入力」という作業が発生します。そこをいかに簡単にしてあげるかがIT化を成功させる秘訣です。

ものづくりの現場ではハンディターミナルを使って、作業時間を計っているところが多い。このやり方は、作業者にとっては一つ工程が増えるので逆に手間になっていると思います。この場合でも工夫をすれば、一連の流れの中で作業時間のデータを取ることは可能です。

私が現場に導入したことがあるものとしては、「ながらスイッチ」などがあります。これはワークを移動させながら簡単に押せるスイッチです。次工程と後工程の間のワーク動線上にスイッチを置き、運搬作業時に触れることを必須動作として組み込めば、流れを止めずに入力忘れのほとんどを防止できます。

長﨑

企業においてIT化を成功に導くには、人の入力を如何に簡略化できるというのが鍵となるのですね。

島崎

ラフでもいいから作業データをとっておくことが大事です。最初からきちんと取ろうとしなくていい。
完璧に実現しようとすると沢山センサと入力が必要になります。
ラフで始めたら本当の価値ではない無駄な作業のデータも入っているかもしれませんが、何もないよりはいいと思います。まずはデータをとる仕組みから考えるというのが大事です。

長﨑

どうしても導入時から完成形みたいなものを考えることが多いですよね。
そこは、まずはラフでもいいからスタートを切る。自社のIT化には本当は何が必要なのかという部分を考えて、次のステップにいくほうがいいですね。

島崎

そこでやってみて大まかだけどデータが取れたなとなったら、もうちょっと細かく計ってみよう、というように始めればいいと思います。それだけでも進歩ですよね。「改善」というのは無駄をみつけて直す。これはどの分野の企業でも共通して言えることです。何度も言いますが、経営者自身が理解しなければ、ITやIoTは、いつまでも難しい技術のままです。

長﨑

一つずつやっていくと次のステップに繋がるはずなのですが、さきほど話に出た「イノベーション」が起こると一気に技術の進歩が進み、世界や時代に置いてかれるという状況が生まれる可能性があります。完全に取り残される前にスモールスタートでも始めるべきということですね。

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失敗の本質

長﨑

本質的な問題は、経営者のマインドかもしれない。どうやったら変えていけるのかなと考えます。
この問題は、中小企業に限らず大手企業でも同じことがいえるかもしれません。システム導入が成功するのは「3割」と著書では拝読しましたが、本格的に導入となった場合どんなことが大事になってきますでしょうか?

島崎

失敗を引き起こす要因は多くありますが、よくあるのは外部のITメーカーにシステムを、言われるままに導入した結果、現場の本質的な困り事の解決になっていないケース。結局システムを使うのは現場です。そこの視点が欠けると失敗します。

長﨑

もっと現場に入ったところからIT化を進めれば、成功する比率も上がってくるということですね。

島崎

まずは人的な改善活動から始めるべき。そこから不便なところをみつけて、ニーズを形にしていけばいいと思います。最初から言われるままにシステム導入しようとするから失敗する。現場から生まれる改善問題の解決手段としてIoTを用いることが大事です。

comment

かつて日本の工場では、改善運動という言葉をよく聞きました。最近ではあまり聞かなくなりましたが、そこが日本製品の品質を上げてきた原動力だった。今は、限られた人的資源の中で高品質を提供するためにIT化という選択肢があります。しかし、それらを使うのは目的ではなく、手段と考えるべきです。そのためにも自社の作業工程で、どの部分が価値を生んでいて、無駄な部分はどこかを見極める必要があります。今回は中小企業でもできるIT化のための創意工夫の事例を伺いましたが、企業ごとに活かせる例はまだまだあります。まずは自分の会社とは関係ないと考えず、前向きにIT化を検討し、小さなことからでも実践してみてください。

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島崎浩一

島崎浩一 株式会社浜テクアート 代表取締役社長

兵庫県出身。大学受験を機に神奈川県に移住。慶応義塾大学を卒業後、大手電機メーカーに入社し、ロボット設計に携わる。その後、大手音響機器製造会社に転職し、オーディオ機器等の商品設計を担当。50歳で退職して経営コンサルタントの資格を取得した。ものづくり専門のコンサル会社に6年勤めた後、経営コンサルティング会社設立。現在、ものづくり企業を中心に、現場密着型の経営コンサルを行っている。

島崎社長の著書「インダストリー4.0 時代を生き残る!中小企業のためのIoTとAIの教科書」の中でも、IoTやAIなどの活用・導入の方法など、実例を交えてわかりやすく解説されている。

長崎義紹 新価値創造ナビゲーター/paragraph代表

『Begin』や『Men's EX』などの創刊編集企画、『WIRED日本版』の再創刊時の編集長を務める。また様々なファッションブランドなどのブランディングディレクションも経験。現在はUNIQLOCKやNikonなど数多くの企業のWEBディレクションを行い、WEBマガジン『TOKYOWISE』の編集長も努めるなど様々なクリエイティブ活動を行っている。