デザインというイノベーションの武器

多くの中小企業が、次の一手を求めて、イノベーションを生むヒントを模索しています。
そこで今回は、創造性の組織マネージメントの手法として、広く知られている“デザイン思考”を紐解いていきます。
日本の“デザイン思考”の第一人者であり、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)で多くの学生に指導されている
奥出直人教授をお迎えして、“デザイン思考”をイノベーションにどう活用するべきかを伺います。

ビジネス戦略をデザインするという思考法

長崎

デザインという言葉は多くの場合、製品のデザインや広告のデザインを指して、使われることが多いと思います。ですので“デザイン思考”と聞くと何となくそのまま「ビジュアルを描くこと」と漠然としたことを思い浮かべるのですが、明確なビジョンが持てません。そこで最初に“デザイン思考”とは何かを具体的に教えてもらえますでしょうか?

奥出

デザインという行為は、何か新しいアイデアを思いついたら、それを表現する構成を考えて、さらに最終的なスタイルを決定するという作業のことです。

本来グラフィックデザイナーやプロダクトデザイナーがビジュアルを生み出していた手法を、企業の活動に活用しようというのが“デザイン思考”です。

より詳しくプロセスを説明すると、まずフィールドワークで顧客を観察。そこでつかまえた顧客の「属性」や「ニーズ」をもとに複数のプロトタイプをつくる。
次に顧客と歩調を合わせて、新価値を生み出すといった手法が“デザイン思考”の基になるでしょう。

長﨑

アイデアをまず形にするのが、スタート地点ということですね。その“デザイン思考”を経営に応用することで、どんなメリットが生まれるのでしょうか?

奥出

まず、イノベーションの意味が“デザイン思考”によって、大きく変わります。“デザイン思考”は誰しも持っている創造性を、段階的に理解するためのマネージメントツールとして有効です。経営視点で言うと革新的な製品やサービスをつくる組織を、恒常的に運営することにあります。ですから“デザイン思考”の方法さえ身につければ誰でも創造性を発揮できるのです。

しかし、“デザイン思考”を正しく使うには、練習が必要です。
思考のプロセス(経験)を反復し、体で覚えることで、できるようになるのです。

また、“デザイン思考”を体で覚えた人は、次の人材を育てていくことができます。そのような広がりを見せることで、イノベーションを生むクリエイティブな組織を構築することができるのです。

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中小企業が“デザイン思考”を活用するには

奥出

中小企業だと一社で新しいプロジェクトを促進するには予算がかかって難しいと思います。ただ、よくある勉強会のようなものですと燃えないという心情がありますよね(笑)。そこで、何社か集まって、プロジェクトの予算を分担しながら、例えば半年間運営してみるのが現実的です。

そこでプロトタイプの種が出たら、追加予算をかけて通年やり、商品開発へと進めます。

完成したものは、展示会に出すのですが、この「展示会に出す」いうのが非常に重要だと考えています。ワークショップ的に取り組むのでなく、実際に「世の中に出すものを作る」ということが本気度を引き出す上でも大切です。その他にも理由はいくつかあります。まず、一度に多くの方に新製品をアピールし、認知度を上げることができる点。次にどんな製品なのかを直接説明できるので、新製品の内容を伝えやすい点。最後に製品の課題などもヒアリングできる点です。展示会に出すことで、具体的な成果に繋がりやすくなるのです。

ある程度、見通しがたったら、さらに次のステップ「実製品の開発」へと進みます。 ここでも一社だけで開発のコストを捻出するとなると、少なくない金額がかかってきます。複数社で行うことで、一社あたりのコストを抑えながらも、イノベーションのアプローチを生むことができるでしょう。

もう一点重要なのが種を木まで育てるには、プロトタイプを作るだけではダメだということです。そこで重要になってくるのは“ブランディング”というステージです。

長﨑

一般的にイノベーションというと自分たちの技術からスタートするところを、“デザイン思考”ではブランディングという大きな絵を描いた中に、自分の技術を持ち込むことでも始められるということですね。

奥出

ブランディングの原型は、商品やサービスのコンセプトです。従来のプロセスは、まずコンセプトを考えて、プロトタイプを作り、ブランディングを行うといった流れが一般的でした。

しかし、“デザイン思考”を正しく使うには、練習が必要です。
思考のプロセス(経験)を反復し、体で覚えることで、できるようになるのです。

長﨑

今、注目を集めているテスラ自動車のイーロン・マスクは、その考え方に近いアプローチをしているのではないでしょうか?

奥出

それは、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズなど現在までイノベーションを起こしている人達が生み出したものだからです。彼らが、がむしゃらに行ってきた約20年間の活動の経験則をメソッド化したものが“デザイン思考”の基になっているのです。

長﨑

どんな小さな芽でも、掘り下げていけば巨大なものになるという事例ですね。

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中小企業は持っているインテグレーションで勝負する。

奥出

“デザイン思考”を経営に活かす時は、組織行動論※1と合わせて考えるのが非常に効果的です。組織行動論の基本は、小集団の活動とコラボレーションです。中小企業は、この手法を活用し、インテグレーション※2で勝負するべきだと思います。

長﨑

意思決定の早い中小企業だからこそ、インテグレーションを活用できますね。それを実践することで、スピードアップし、従来のフィールドから抜け出して、新しい事業に取り組むことができるということでしょうか?

奥出

ここでのイノベーションの基本は技術の再編です。組む相手が変われば、相乗効果が非常に出やすいということです。今までとは違う分野と手を組み、応用することで、新しい価値を生むことを目指します。その時にIoTやビッグデータなどの仕組みを付加価値としてつけてあげることで、今までにないバーティカル※3なプラットフォームが出てくるのだと思います。

※1
組織行動論:組織行動は、企業組織の生産性や業績に影響を及ぼす個人行動や、集団行動、そして組織そのものの行動を研究する分野
※2
インテグレーション:統合という意味
※3
バーティカル:直訳する「垂直」という意味だが、ここでは限定的なという意味
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日本企業が秘めている次のチャンス

奥出

IoTとビッグデータによって、あらゆることが大きく変わってきます。
例えば造船業があります。この分野は非常に可能性を秘めていると思います。

しかし、現状は業界内のシェアをほとんどが、大きな造船メーカーが占めているので、日本では未だにイノベーティブな企業が頭角を現してきません。大きい船を造船する力がなくても、例えば自動操縦などの最先端技術を開発ができれば、大きな成果を生めるかもしれません。その開発したソフトウエアが、あらゆる船に搭載されたら大型造船のシェアを獲得する以上に大きな利益が生まれるはずです。
また、ここでも単独でやろうとせずに複数の企業と手を組み、新しい船を作り出すという方法もあるはずです。

造船業だけでなく、住宅や発電所など、まだ手付かずの分野は多くあります。車だってわかりません。AIの技術も決して日本は遅れているわけではありません。ソフトウエアでは遅れをとりましたが、その先のテクノロジー領域では、日本の中小企業にもチャンスは多くあると思います。
また、日本企業にチャンスを感じているのは、非常に高度で特化した技術と長い歴史を持った企業が、多く存在しているという点です。

例えば三重県は、自動車や飛行機などの優秀な関連会社が多く存在します。ほとんどが機械加工中心で、少しの電気系の企業が点在しています。
そこで圧倒的に欠けているのが、デジタルの技術です。
ただ、ここで持ち込むコアの技術は、中小企業の規模では研究が難しいとは思います。できたとしても次の一手の余力がなくなってしまう。
そこで、自社でデジタル技術を育てるのではなく、技術を持つ企業とまず組むのです。様々な企業と連携して、互いの技術やノウハウを活かし進めることが重要です。

デザイン思考によって、技術の活かし方やイノベーションの方向性を見出し、そこに新しい仕組みができていくのです。

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comment

米国のデジタル分野から始まった“デザイン思考”を上手く活用できれば、日本の中小企業にとっても、イノベーションがより身近になるでしょう。

それには、日頃からデザイン思考を用いた発想を反復し、多くの企業の技術や製品と積極的にインテグレーションし、習得する必要があります。次の波に取り残されないためにも是非実践してもらえればと思います。

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奥出直人 慶應義塾大学教授

1978年慶應義塾大学文学部社会学科卒業、1986年ジョージ・ワシントン大学アメリカ研究科博士課程修了Ph.D.。1990年以降慶應義塾大学にて教鞭を執っている。文化人類学、現象学、メディア環境論などの幅広い研究業績を基盤に、現在はインタラクション・デザインやデザイン思考など、21世紀のモノづくりの根幹となるフレームワークを研究・開発。
専門分野:インタラクション・デザイン、メディア環境デザイン、デザイン思考

長崎義紹 新価値創造ナビゲーター/paragraph代表

『Begin』や『Men’s EX』などの創刊編集企画、『WIRED日本版』の再創刊時の編集長を務める。また様々なファッションブランドなどのブランディングディレクションも経験。現在はUNIQLOCKやNikonなど数多くの企業のWEBディレクションを行い、WEBマガジン『TOKYOWISE』の編集長も努めるなど様々なクリエイティブ活動を行っている。

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