70年という長い歴史を誇る魚岸精機工業。昨年から新価値創造展に出展しているが、最も重視していることは付加価値提案をアピールすることだという。
当初は大失敗の連続のダイカスト金型製造
2016年に創業70年を迎えた魚岸精機工業。約780℃に溶かしたアルミを金型内に圧入し、主に自動車の機能部品に成型されるアルミダイカスト金型を製造する会社だ。
「魚岸精機工業は富山県で最初にできた金型メーカーで、ダイカスト金型では北陸最初に手がけた会社です。我が社のパワーの源は、70年間で蓄積した金型製造ノウハウや実績。同業他社から見ると、こことは勝てないと思うところではないでしょうか」
代表取締役社長・魚岸力氏は魚岸精機工業の誇るべき利点をこのように語ってくれたが、ダイカスト金型を手がけた当初から上手くいったわけではない。
「1946年に操業した当時は、戦後すぐだったこともあってスタンピングという簡単なプレス金型を手がけていました。その後、サッシの金型、家電用などに使うプラスティック射出成形用の金型などを製作していきましたが、福井県内にあったある大手家電メーカーの系列会社からの依頼がきっかけとなりダイカスト金型を手がけることになったのです」
その依頼を先代の社長が「プラスティックの金型ができるなら、金属もできるだろう」と軽い気持で受けたものの、結果は大失敗。原料が片や樹脂、片や金属では金型の構造自体が大きく違っていたのだ。
しかし魚岸精機工業はダイカスト金型を諦めなかった。
「約40年前、富山県内の臨海工業地帯に国内自動車メーカーの工場が進出してきました。そのときからアルミダイカスト金型を本格的に手がけることになったのですが、当時は製造ノウハウもなく専門の技術者もいません。そこで当時、ダイカスト技術に長けていたスイスのメーカーに工場長が研修に出向き、アルミダイカストとはどういうものなのかを学んだのです。そのとき習得した技術が、いまに至る我が社のダイカスト技術の源です」
その後、同社はリーマンショック時に大幅に業績を落としたものの、それらの危機を乗り越え、いまや北陸の業界内で知らない人はいないと言われるほどの金型メーカーとなった。その名声は北陸のみならず全国的に知れ渡り、現在はほぼすべての国内自動車メーカーと取り引きを行うほどの実績と名声を得ている。
展示会ではただ技術をPRするだけではダメ
そんな魚岸精機工業は昨年(2015年)、初めて新価値創造展に参加した。すでに業界内では一目置かれている同社が展示会に参加した理由は何だったのか。
「我々は金型を製造する会社ですが、製造した製品は発注していただいたお客様のもの。製品を使って会社のPRをすることはできないのです。そこで新価値創造展のような展示会が重要になるのですが、会場で新規成約に結びつくことが難しいことはわかっています。私は成約を目指すというよりは、魚岸精機工業が何をやっている会社なのか知らない人に『ああ、こういうことをやっている会社なんだ!』とすぐわかるように、我が社の強みを感じていただけることにこだわっています」
出展した昨年は、同社を知る来場者から「新価値創造展に出展していましたね!あの展示会はみんな元気印の企業ばかりが出てるんですよ。魚岸精機工業さんも元気印の会社なんですね!!」などの反響があったという。ただ、振り返って新価値創造展に出展したことが同社にとってメリットになっているのだろうか。魚岸さんにそのあたりをどう思っているか聞いてみた。
「出展したことがメリットになるかと聞かれたら、大きなメリットになるとはっきり言っています。先ほど話したように金型をそのまま展示することはできないですが、我が社は金型を製造する技術がある。その技術のなかで、我が社の一番コアな部分はなんだろう、いわば強みを必死になって考えて再発見する。重要なのは、ここなんですよ!ただ技術をPRするのではなく、必死になって考えた自社の強みを絞り出し展示表現することが、同業他社との差別化を図る大きなきっかけになるのではないでしょうか。
今回(2016年)、我が社は金型を製造する技術だけではなく、製造する前に金型内部でどういう風に原料が流れていくか、内部に欠陥はないかなどの事前チェック。また、製造後のメンテナンスを考えて不良率を下げるなどの提案など金型製造の前後工程をトータルで請け負う、そういう金型を基軸とした付加価値の部分を対応できる会社なんだとPRすることにこだわりました。それが我が社の同業他社と大きく違う部分だと考えたからです。ただ金型を製造するだけではなく、お客様が困っていることを創業70年の実績に裏づけられた私たちができる範囲で一生懸命対応し顧客満足度を高めること。それが本業の金型製造に結びつくのだと私は考えています」
公開日:2016年12月21日
- SNSでシェアしよう