株式会社疲労科学研究所代表取締役の倉恒邦比古氏(中央)と、同社のパートナーであるパナソニック株式会社の福家良晃氏(左)、株式会社村田製作所の伊佐孝彦氏(右)
他社と上手に連携しながら新しい価値を持つ製品を作り出すためには、どのような視点をもってパートナーを探し、開発に臨むべきでしょうか。また、その際に新価値創造展をどのように活用すべきでしょうか。自社で開発した「疲労を数値化するプログラム」をもとに、ものづくり企業とタッグを組んでさまざまな製品を世に送り出す「株式会社疲労科学研究所」と、パートナーである「株式会社村田製作所」「パナソニック株式会社」にお話を伺いました。
ものづくりの技術とアカデミックな知見を融合
主観でしか判断できなかった「疲労」の度合いを測定し、目に見える「数値」で表す──。健康・医療分野にも企業の生産性向上にも大きく貢献し得る製品を、他社との連携によって生み出したのが、大阪府に拠点を置く「株式会社疲労科学研究所」です。
大阪市立大学医学部の疲労クリニカルセンターの医師を中心に設立された同社は、疲労・ストレスと自律神経活動の関係に着目。心拍データに基づいて自律神経活動の変化を解析し、疲労・ストレスを数値化する独自のアルゴリズムを、同センターや理化学研究所と共同で開発しました。その仕組みは政府にも認められ、東日本大震災の復興支援活動にも利用されました。代表取締役の倉恒邦比古氏は当時をこう振り返ります。
「震災直後の2011年初夏より、国の要請で気仙沼市職員の方々の計測を始めたのですが、一つ問題が浮上しました。当時使用していた心電計や脈波計は、気候や肌の乾燥状態で働きが悪化して、測り直しが必要になることがあったのです」
2社の知見をあわせて問題を乗り越える
この問題を解決したのが、「株式会社村田製作所」との連携でした。心電波と脈波の2つのデータを同時に測定できる村田製作所のシステムを活かした結果、両社は短時間、かつ簡単な操作で精度の高いデータが得られる簡易疲労・ストレス測定システム「VM302」(=写真1)を2012年に完成。村田製作所の伊佐孝彦氏は、連携のメリットについてこう語ります。
「当社には高精度のセンサーを作るノウハウはあったのもの、医学的なバックボーンはありませんでした。そこで、我々のものづくりの技術と、疲労科学研究所さんのアカデミックな知見を融合。被測定者の負担を減らしながら、その方の状態を正確に検知できる使いやすいシステムが完成しました」
両社はその後も連携によって製品などのブラッシュアップを継続。15年には「VM302」の進化版でスマートフォンに対応した「VM500」(=写真2)を、18年には同モデルの非医療機器タイプ「MF100」(=同)をそれぞれ製品化し、新価値創造展などへの出展を通して販路開拓を行っています。
疲労科学研究所の他社との連携は、上記の例だけにとどまりません。「パナソニック株式会社」との「きもちスキャン」(=写真3)の共同開発では、疲労を数値化する疲労科学研究所のアルゴリズムと、PCカメラに映った顔の皮膚の色から心拍変動を推定するパナソニックの技術を掛け合わせることで、労働者の「きもち」の“見える化”を実現しました。パナソニックの福家良晃氏は、連携の経緯について次のように語ります。
「当社の非接触バイタルセンシング技術を使えば、PCに搭載されたWEBカメラの顔画像から脈拍レベルを推定できます。ただ、『きもちの見える化』というソリューションメニューを医学的知見に基づく形で仕上げるのは、社内だけでは難しい。そこで疲労科学研究所さんに監修いただき、両社の知見をあわせて問題を乗り越えました」
こうした数々の連携について、疲労科学研究所はどう考えているのでしょうか。
「村田製作所さんとは共同で特許申請も行っていますし、パナソニックさん案件では、疲労関連データを蓄積・解析することによって、疲れのたまり方や日、週、月ごとの生産性を見える化するといったことも考えています。また『株式会社ジンズホールディングス』さんと共同で、メガネを通して目やまぶたの動きで疲労を測定する特許も出しました。今後も健康・生産性の分野での連携には大きな可能性があると感じています」(倉恒氏)
コストパフォーマンスを考えれば出展しない手はない
疲労科学研究所は2015年から新価値創造展に出展しています。連続で参加を続けているのは大きなメリットがあるからこそ。そのひとつが認知度・知名度の向上です。
「初出展時から当社に興味を持ってくださる方が多いことに驚きました。ブースでは例年4〜5台のデモ機器を設置し、来場者の方のストレスを計っていますが、時には数十名の方が列を作ることもあります。出展開始以来、自社ホームページのアクセス数や問い合わせも右肩上がりで増加し、出展をきっかけに多数の連携も実現しました」
医学的知見に裏付けられた同社のデータを新薬やサプリメント開発のエビデンスに使いたいという製薬会社やサプリメント会社との共同作業も実施。精密機器メーカーから、自社センサーで疲労やストレスを測定するシステムを構築できないかという提案を受けることもあり、展示機器の購入を希望する企業も少なくありません。しかも、主催者サイドが連携を積極的に支援しているのもポイント。
「新価値創造展は出展費用も比較的リーズナブルで、中小機構のコーディネータ(専門家)が他の企業などとのマッチングもサポートしてくれます。そうしたコストパフォーマンスの高さを考えると、参加しない手はないと思いますね」
連携によって自社の強みを生かした独自製品を世に送り出し、外部の展示会などの場も上手に活用しながら、そうした製品を広く告知し、新たな連携の機会を探っていく──。そんな疲労科学研究所の活動姿勢は、ブレークスルーを狙う中小ものづくり企業にとっても、大いに参考になるはずです。
取材日:2019年9月26日
企業情報
株式会社疲労科学研究所
倉恒邦比古代表取締役
2005年、大阪市立大学医学部の疲労クリニカルセンターの医師数人による出資で設立。健康に関する評価、診断、治療法に関する研究と開発、また、疲労を主体とした各種疾病の医療技術ならびに医療用品の研究、開発および販売を行う。他社との連携による機器開発に加え、データの評価・解析にも強みがあり、特許、実用新案等知的財産権の企画、立案、開発、研究、取得、保有および運用も手がける。
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