BreakThrough 成功事例

幅広い分野の課題を解決できるナノファイバー量産装置を開発し、事業化に成功 関西電子株式会社

2020.03.26

SHARE
  • facebook
  • twitter

「ナノファイバー」は、その多様な特性が世界的にも注目を集める新素材です。しかし、これまでは量産できないという課題がありました。この課題を解決する量産型ナノファイバー溶融紡糸装置を開発し、事業化に成功したのが「関西電子株式会社」です。この素材の幅広い分野への展開をパートナー企業とともに進めたいとする同社の代表取締役 社長・進士国広氏(写真左)と、取締役・近藤正博氏(写真右)の二人にお話を伺いました。


メルトブロー法でナノファイバーの大量生産に成功
ポリプロピレンやポリエチレンなどの原料をナノレベルの細さに生成したナノファイバーは、吸音、断熱、油吸着、保温、除染、ウィルス防御など多様な特性を持っています。しかし、これまでの生成方法である「エレクトロスピニング法(電解紡糸法)」※では量産が難しく、コストが高額になるという課題を抱えていました
「そこで当社は従来とアプローチを変え、加熱によって軟化し冷却によって固化するという原料の熱可塑の特性を生かし、一度溶融させてから高温エアで特殊ノズルより吐出させて生成する『メルトブロー法(溶融紡糸)』を採用しました」
風圧の力を利用し、原料が引っ張られることで素材を生成する特殊ノズルの開発に成功したことで、直径500nmのナノファイバーを安定的に生成できるようになり、5000g/h〜8000g/hという量産も可能に。2017年には特許も取得しました。
「研究者たちは当時、細さを追求していました。確かに直径100nm以下の素材は従来の方法でしか作れません。ただ私たちは、細さは性能を保つことができれば充分で、それを大量に生産できたほうがいいのではないかと考えました」
同社が注力しているのは直径500±300nmの領域。この領域でもナノファイバーとしての特性は有しており、環境対策商品や機能性商品、アパレル商品、アグリ資材など幅広い分野での応用が進められています。細さを競うよりも、さまざまな可能性を秘めた新素材を大量にコストを抑えて素早く提供してほしいという市場のニーズを優先したことが、ブレークスルーの決め手になりました。
※紡糸ノズル内のポリマー溶液に高電圧を加えてナノファイバーを生成する方法

直径500±300nmのナノファイバーの量産を可能にした「量産型ナノファイバー溶融紡糸装置」の特徴を説明する近藤氏

PRには新価値創造展などの展示会を活用

もともとは海外メーカーの直流高圧電源や放射線測定器などを扱う輸入専門の商社だったという同社。ナノファイバーの研究が日本でも行われるようになった20年ほど前に、その研究に必要な海外メーカー製の直流高圧電源の国内総代理店を同社が務めていたことが製品開発のきっかけになりました。
「さまざまな研究機関で性能テストなどの協力依頼に応じているうちに、ナノファイバーが大きな可能性を秘めた素材であることがわかり、自社でもやってみようと考えました」
そんな同社は、同素材を活用した製品開発などの今後の展開に関して、パートナー企業との連携を前提に考えており、新たな企業との出会いを期待して、2016年より新価値創造展への出展を続けているそうです。
「新価値創造展は出るたびに新しいお客様に出会えるといった印象です。大手企業を含め来場者も多様で、さまざまなエンドユーザーの方々と身近に接近できることも魅力ですね」
同展を含め、年に7〜8回に及ぶ展示会への出展活動により、同社にはケミカル、機械、学術・研究、繊維、紙・印刷、建設、防衛など幅広い業界から関心が寄せられるようになりました。このうち約70社とはすでにNDA(秘密保持契約)を結ぶにまで至っているといいます。

ナノファイバー製造装置を進化させ、製品化のアイデアはパートナー企業に
「当社のナノファイバー量産装置はその後も改良を重ね、メンテナンスフリーを実現したほか、太さを直径300 nm〜1000 nmの間でコントロールすることも可能になりました。また、機能性素材をブレンドして新しいナノファイバーを作り上げることもできます」
中でも注目は、2019年の新価値創造展で発表した「ナノファイバーシート化装置」です。
「ナノファイバーは自重の53.8倍もの油を吸着できます。この特性を最大限生かせるようシート状にして、例えば水質浄化フィルターなどに活用できる製造装置を開発しました。おかげさまで、すでにこのシートを売りたいという依頼が舞い込んでいます」
無限の可能性を秘めたナノファイバー。ただ、同社はあくまで装置メーカーであり、製品化はパートナー企業に託したいと言います。最後に、そのまだ見ぬ未来のパートナーに向け、次のようなメッセージをいただきました。
「ナノファイバーの価値を最大化するには、研究熱心な皆さんの力が必要です。世界に羽ばたくような製品を一緒に作れるパートナーとぜひ出会いたいです」

取材日:2020年2月10日

企業情報

関西電子株式会社

代表取締役 社長 ・進士国広(しんじ・くにひろ)(左)
ナノファイバー事業部プロデューサー 取締役 ・近藤正博(こんどう・まさひろ)(右)

1968年に創業。アメリカ、イギリス、ドイツなど海外諸外国の直流高圧電源や放射線検出器メーカーの日本総代理店として輸入販売、技術サポートなどを行う。数多くの国内研究機関、企業との交流を通じて蓄積してきた技術と経験を活かし、ナノファイバー量産装置など自社オリジナル製品の開発製造にも取り組む。

企業情報ページはこちら

SNSでシェアしよう
TOP